黄金の船①

「船探し?」

凛が読んでいた本から顔を上げてきょとんとこちらを見る。俺は頷く。

俺たちがいるのは国の果ての街。

海が広がる港町だ。

「あぁ。黄金の船が300年前に海上で行方不明になったらしい。依頼は簡単だ。その船を見つけて欲しい。ただそれだけだ。」

「何でそんな依頼を受けたのよ。」

「船が欲しいから。」

「国を出るの?」

俺は首を振る。

「アイテムボックスに収容するんだよ。使い道はありそうだし仕組みがわからないとジョブでも作れないらしい。なら一流の造船技師が作った船を貰って一から仕組みを解明したい。アイテムクリエイターの進化にも繋がると俺は思ってる。」

俺がそう言うと凛は少し考え込む。

「話はわかったわ。でも手がかりはあるの?」

「無い。」

「はぁ…。バカね。でもいいわ。アンタが船を手に入れられれば使い道はあるもの。私も手伝うわ。まずは情報収集といきましょう?」

「助かる。凛がいれば情報収集も一気に進むよ。俺は聞き込みとか苦手だから。」

俺達はまず酒場に向かう。情報といえば酒場に集まる。それはどの世界でも共通認識だ。


「黄金の船だぁ?やめとやめとけ。夢のある話だが見つけた奴はいねぇよ。アンタのアイテムには世話になってる。いなくなられちゃ困るんだよ。」

「あの船を探すのはやめとけよ若夫婦。アンタ達以外に船を探しに出た奴は5万といるがな見つかったことはねぇわ。それだけじゃねぇ。船を探しに行って帰ってこなかった奴が大勢いる。命は大事にするもんだ。」

大体の人達は俺らを笑うわけでもなくただ止めてくる。どうやら探しに行って帰ってこない者が大勢いるらしい。

この街で一ヶ月間、露店を開き滞在しているおかげか顔馴染みの人達がみんなして心配してくれた。俺達は話を聞いてくれた人たちに一杯ずつ奢り酒場を後にした。

「黄金の船は間違いなくあるわね。」

「凛もそう思うか?」

「えぇ。黄金の船なんて絵空事を私なら笑うもの。黄金で船を作って海を渡るなんて沈めてくださいって言ってるようなものだわ。重いし目立つし利点が一つもない。でも彼らは一人も笑わなかった。いくら魔法がある世界でもおかしいわ。なら結論は一つ。」

「黄金の船はある。」

「えぇ。そして彼らは一つだけ情報をくれたわ。」

「情報?そんなのあったか?」

「誰一人帰ってこないって事よ。」

「?それが情報なのか?」

俺がそう言うと凛はやれやれと首を振る。

「バカね。この街に一ヶ月もいて気付かないの?船で侵入を禁止されている区域があるわ。私の予想だとそこに黄金の船はある。」

「っ…天才か?」

「バカね。アンタがアホなのよ。」

「ぐっ…」

「そうと決まれば明日は大忙しよ。さっさと帰って休みましょう。」

目的地が決まった俺たちは宿屋に戻りその日はゆっくりと休んだ。


依頼主は一人の青年。

黄金の船を使って海に出た者の子孫だ。

「船は喜んで貸しますが本当に大丈夫ですか?頼んだ手前こんな事を言うのはおかしいですが帰って来た人はいません…。」

「大丈夫よ。私の夫は最強だから。」

凛の微笑みに少し安心したのか青年は船を貸してくれた。用意してくれたのはガレオン船。

俺たちの為に最高級の船をと貸してくれた。

その後、操作方法を教えてもらい俺たちは早速海に出たのだった。



「シールド。」

凛が船に3重でシールドをかける。

「何があっても船は沈めさせないわ。アンタは明鏡止水と乾坤一擲以外で戦いなさいね。流石にシールドが保たないから。」

「わかった。」

「方角はここから西へ真っ直ぐ。気をつけなさい。ここから先は死の海域と呼ばれているわ。何が起こるか分からない。コンパスは私が持つから梶はよろしくね。」

「あぁ。」

気配察知には特に何も引っかかってはいない。

目的地はすぐそこだ。気配察知に引っかからないということは今すぐ何かが起こるということはないだろう。なのに何だろう。胸騒ぎが…

「奏!」

「どうした!?」

「コンパスが回ってる!」

「何!?」

確認の為に一度船内から出るが俺は凛を抱き寄せる。目の前には濃い霧が立ち込め始め隣にいるはずの凛が一瞬で見えなくなったからだ。

俺は急いで凛を連れて船内に戻る。

バタンと扉を閉めると霧の影響は無くなった。凛の顔もよく見える。

「不味いわね…」

「あぁ。視界を奪われた。これは力づくではどうにもできない。自然が敵とは…」

「ひとまず落ち着きましょう。ここで慌てるのは一番不味いわ。」

「そうだな。」

俺たちは椅子に座る。

「現状まだ慌てる必要はないわ。運のいい事にここにはアンタがいる。アイテムボックスには大量の食材があり船が沈む心配も私のシールドがあるから無い。問題があるとすれば船の錨を下ろす方法が現状ない事ね。この霧では船外に出るのは危険すぎる。どこに何があるか全然分からないもの。」

俺は少し考える。他の船が同様の現象に見舞われたとするならば流された結果同じ場所に流れつかないだろうか…。

「いっそ流される方法はありだ。」

「そうね。他の船がこの海域で同様の現象にあっているならば流されて確認するのもいいかもしれないわね。」

「最悪は空蹴りで空へと逃げる方法もある。凛のシールドと空蹴り、神速で脱出を図ろう。」

「それは最終手段ね。もう方角がわからないもの。無事に街にたどり着く可能性は薄いわ。可能ならこの船は失いたくないわ。」

俺は頷く。

「一つ提案があるわ。」

「なんだ?」

「今船外に出るのは危険だし、今の内に船内の仕組みを把握しましょう。アイテムクリエイターで船を作成する為には知識が必要でしょ?」

「成程。最悪船を作れるようになれば…」

「えぇ。この船の代わりを手に入れることも可能よ。さっきの脱出にも現実味が出てくる。外観は十分観察したけれど内部の構造はまだ把握してないでしょ?時は金なりとも言うしね。じっとしてるのは時間の無駄よ。」

俺は頷き凛と共に船の内部の確認に向かった。



「これは現実の船とはだいぶ違いそうね…」

俺たちが今いるのは機関室だ。

機械は全自動で動いてはいるが所々光っている。恐らく燃料は魔石だ。魔石は魔法を込めた石で街で販売されているのをよく見る。

念の為アイテムボックスに貯蔵しておいて良かったと俺は思った。

俺がそっと機械に触れると構造が頭の中に流れ込んでくる。アイテムクリエイターのチートの一つだ。触れる事により構造を把握して作成可能になる。枠には触れているのでこの調子で内部を理解していけば何とかなるだろう。

「どう?」

「手当たり次第に触ればなんとかなるかも。まだ全部は解明できない。」

「そうよね。時間がどれくらいあるかは分からないけれど出来うる限り船の構造を把握していきましょう。」

「あぁ。」

俺たちは一先ず船の構造を理解するところから始める事にした。


どん…

シールドが何かに当たり船が少し揺れる。

俺はとっさに凛を抱きしめた。

「ありがと。」

「あぁ。何かに当たったか?」

「そうね。となればここが終点かしら。船の解析は終わった?」

「もう少しだと思う。」

「そう…。今はそれが最優先ね。」

「っ…敵感知!」

突然感知に引っかかった何かが急速に接近すると同時にドンと音が鳴る。俺は衝撃に備えて凛を抱きしめる。

「シールドは問題なさそう。」

「そうだな。だが障害は排除した方がいい。」

「そうね。なら出ましょうか。」

俺は首を振る。

「私も行くわよ?」

「今回はドアの前に待機してくれ。」

「嫌よ。」

「頼む。」

俺が凛に本気で頼むと凛は仕方ないわねと苦笑いを浮かべる。凛を残して外に出た俺が見たのはシールドに体当たりを続けるデカい蛇。俗にゆう海竜という存在だった。

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