異世界に召喚されたけど元の世界に帰りたい

@Ka-NaDe

異世界召喚を喜ばない奴もいる

「はぁ…怠い…」

俺こと剣崎奏(けんざきかなで)は絶望の淵にいた。

俺の目の前には意気揚々とテンションを上げ続けているクラスメイト達がいる。

こいつらのテンションが高いのは今流行りの異世界召喚に巻き込まれたからに他ならない。

そんな中、俺はいつも通り気配を消して部屋のはじに座っていた。

そも異世界というものが本当にあった事にも驚きだが、まぁされてしまったんだからそういうこともあるのだろう。

先程のお偉い方の話を聞く限り俺達は魔王と戦わなければならないらしい。

やってられない。

俺は静かに立ち上がり部屋を出た。

あの能天気なクラスメイト達は日常の変化を喜んでいたが俺は逆だ。

俺の家は日本刀を鍛造する鍛冶士の家系だ。

俺の夢は日本一の日本刀を作る事。

その夢は一瞬で打ち砕かれた。

異世界召喚はクソだ。

何の権利があって俺の夢を奪ったのか。

憤りたくもなるが先ずはここからの脱出が優先だ。俺にできる事は一刻も早くここから抜け出して旅をして異世界からの脱出を図る事だ。

異世界が本当にあることがわかった以上現実にある異世界小説は帰還者が書いたものかもしれない。これは唯一の希望だ。

俺はそう決めてステータスを開く。

この世界にはゲームのようにステータスを視認する方法がある。

今のステータスはざっとこんな感じ。

————

職業:

剣聖

鍛冶士

アイテムクリエイター


オートスキル

・剣神

剣聖付随のスキル。剣を握っている間はあらゆるダメージを防ぐ

・影踏

気配を殺す事により何物にも気づかれずに移動できる

・アイテムボックス

アイテムクリエイターの副産物。素材を保存可能。容量無限。

・鍛冶

武器を作成可能

・アイテムクリエイト

素材があればアイテムを作成可能


スキル

・神速

間合いを詰める高速移動

・空蹴り

空気を足場に移動できる

・一閃

居合からの最速の剣舞

———


どっからどう見てもチートです。

本当にありがとうございました。

恐らくクラスメイトもこんな感じでチートを付与されているのだろう。

何にせよ俺のやるべき事はいつも通り気配を殺して脱出するだけである。

俺はそう心に決めて早速行動しようと動こうとした時誰かに服を掴まれてつんのめった。

恐る恐る振り返ると見知った女生徒の顔が至近距離に近づいてきた。

「奏。あなた一体どこにいくのかしら?」

「凛さんや。俺は一刻も早くここから逃げなければいけない。手を離してくれるかな?」

速水凛(はやみりん)。幼稚園からの腐れ縁。所謂幼馴染というやつだ。

「それは何故?これからみんなで協力していかなきゃいけないタイミングであなたは何故逃げようとしているの?」

この微笑みはやばい。マジでキレる5秒前だ。

「俺は元の世界に帰りたい。俺の夢は日本一の日本刀を作る事だからだ。その為に帰れる方法を探す旅に出る。こんだけ集まってればチートで楽勝だろ。俺は目立ちたくもないから今すぐ逃げる。」

俺がそう言うと凛が溜息をついた。

「条件があるわ。」

「おっ、おう…」

「私も連れていきなさい。」

「二人じゃ脱出も難しいだろ。」

「なら諦めなさい。」

凛はじっと俺の目を見る。

「はぁ…。負けたよ。」

俺はそう言うとひょいっと凛を抱っこする。

「えっ!?」

所謂お姫様抱っこってやつだ。

凛は驚きからか目をぱちくりさせている。

「口閉じてろ。舌を噛むぞ。」

影踏みは諦めて力尽くで窓から飛び出して神速を利用して跳躍した。


「きゃーーーーーー!」

凛の叫び声を聞きながら、はてと思う。

この神速は相当凄いらしく斜め上に跳躍した俺達は未だに空中にいる。困った。

「どうやって降りよう。」

「このバカーーーー!」

凛の叫び声に申し訳なくなった。

「凛さんや。何かスキルを持ってないかい。」

「スキル!?あっ!あるわ!シールド!」

凛が叫ぶと球体のガラスのようなものが俺たちを包む。

「おぉ!流石だ!よし!これならいける!」

俺は空蹴りを使い方向転換を行う。そして凛を抱きしめる。凛に怪我をさせるわけにはいかない。そのまま俺達は地面に不時着した。

俺達はコロコロと転がって木にぶつかり何とか止まる事に成功した。

シールドは着地に成功して崩壊した。

「あ…」

体制は俺が上で凛を押し倒す形になっている。頬を赤らめる凛の顔と柔らかな感覚に俺は急いで飛び退いた。やばい殴られる。俺は凛に手を差し出して起き上がらせた。

「すまん。怪我はないか?」

「大丈夫よ。庇ってくれてありがとう。」

意外と殴られなかった。良かった。

「ここはどこかしら。」

「うーん。取り敢えず城が遠くに見えるから脱出は成功だな。」

遥か遠くに城の屋根が見える。

「取り敢えず逆方向に行くか。」

「そうね。シールド。」

凛がシールドを使用すると先程とは違い体を薄い膜が包んだ。

「へぇ。使い勝手が良さそうだな。」

「そうね。イメージ通りにいったわ。これなら不意打ちに対応できるわよね。」

「あぁ。ありがとう。俺は力技で移動する気だった。」

俺がそういうと凛はくすくすと笑う。

「あんたのそういうところは昔から変わらないわよね。」

「そっちの方が楽だからな。」

「バカね。さぁ行きましょう。ここに留まるのは安心できないわ。」

俺は凛に並んで歩き出した。


「アイテムボックス」

あって良かった特殊技能。アイテムボックスの中には既に様々な素材が入っていた。

「一家に一台奏もんね。」

凛が呆れたような顔で言う。

あれから4時間くらい経ち俺達は俺が作ったほったて小屋を凛のシールドで包み休んでいた。

「ドラ○もんみたいに言うなよ。」

「言いたくもなるわよ。魔物は一瞬で切り捨てるし、いきなり木を大量に切ったと思えば目の前から消えるし、木を大量に地面に出したかと思えば家ができるし。お風呂はあるし。何故か食べ物まである。あなたできない事はないの

?」

「自慢じゃないが料理ができない。ダークマターが出来る。」

「本当に自慢じゃないわね。」

そう言い凛が立ち上がって台所に向かった。

「凛の料理!」

凛は小さな頃から料理が大好きでその腕はプロ級。俺もたまに食わせてもらっているが最高の一品だ。

「何か見たことがない肉ばかりね。」

「うさぎの魔物の肉だ。どうやら毒はないらしい。アイテムボックス欄で説明文を見たが味は一級品らしい。」

「そうなのね。じゃあ色々作りましょうか。」

凛は手早く下ごしらえを始める。手伝えばダークマターになるので俺は作った鍛冶場に向かう事にした。

アイテムボックスから刀を一振りだす。

紅月(こうげつ)

俺の鍛造した刀で向こうの世界でも相棒だった。奇跡的な火の入り方から刀身が赤く輝いており親父にも認められた俺の最高傑作だ。

不壊属性が付与されているらしく壊れる事は無いようだが入念に手入れをする。

凛に呼ばれるまで俺は刀の整備を続けるのだった。料理は最高に美味かった。


「凛が一緒で良かった。」

俺は満腹になった腹をさすりながら正直に言った。凛は少し照れくさそうな顔をする。

「何よ突然。」

「生きていく上で飯は大事だろ。それに話し相手が一人でもいるのは悪くない。」

「私がいないとアンタは私生活がボロボロになるでしょ。それにおじさん、おばさんにアンタのこと頼まれてるし。それより何で私を置いて行こうとしたの?」

「そりゃお前…。いや何でもない。」

「何?まさかアンタあの下らない噂を信じてるんじゃないでしょうね?」

噂とは凛がクラスの林という男子と良い仲という噂だ。

俺達は別に付き合って無いしただの幼馴染だ。イケメンと良い仲となれば俺が邪魔するわけにはいかないから少し距離を取っていた。だがこの言い振りは…

「えっ?違うの?」

「バカ。アレはあの男が自分で流したのよ。」

「えぇ…。きも…。」

「はぁ…。まぁいいわ。これからはちゃんと守ってよね。アンタ強いんだから。」

「わかった。」

その後、俺達は久々に昔に戻ったような会話をした。何だか距離が縮まった気がした。

夜はあっという間に更けて俺達は風呂に入りその日は眠った。


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