第29話

「こ、こっち」

 

 怯えながらエックは森を進んでいく。


「魔妖精ってなんだ? ネオン」


「魔妖精というのは、負の魔力にのまれ自我をなくした妖精です。 ただひたすら魔力を食い暴れまわる怪物といいます」


「う、うん。 すごい怖いの。 昔それを妖精姫が封印したの」


「なるほど、そんなに怖いのにわざわざ案内してくれるのか」


「ぼ、ぼくみんなより魔力もなくて...... いつも迷惑ばっかりかけてるから、みんなを助けたくて」


 そうエックはキョロキョロしながら、飛んでいる。


「偉いな」


「そ、そんなこと...... あっ! あれ」


 川があるが黒い水を流れている。


「これは、黎湖ブラックレイクの水みたいだな」


「そ、そう。 あれと同じように水をよごすから、あまり水の精霊は使えない」


「なるほど、それでゴーレムの炎も消せなかったのか」


 おれたちは川をさかのぼり滝を見つけた。 



 ネオンの防御魔法で黒い水を防ぎながら裏にある洞窟へと向かう。 中から異様な魔力が発生している。


「どうやら、ここからここかどす黒い魔力が流れて、水を黒く染めているようだな」


「う、うん」


 エックは震えている。


「怖かったらここでまってていいよエック」


「ううん...... 僕もいく」 


「ネオン、エックを守ってやって」


「はい」


(精霊ちゃんにいわれるまでもなく、奥になにかいるな。 魔妖精はどの程度の強さなんだ) 


『負の魔力を集め、周囲を汚染するほどなので、おそらく私と同じぐらいかと』


(大精霊と、よくわからないな......)


 おれは魔力を集めて、そこにあった土や木、石、空気から十体の精霊をつくる。 


「せ、精霊をつくれるの!? しかもそんな数!!」 


 エックが驚くと、ネオンがうなづいている。


「ええ、マサトさまはなんでもできるのです」


「な、なんでも!」


(すごいネオンの評価が高い......)


「あと、火と光をつくれるかな」


「それなら僕が火を......」


「私が光をつくりますね」


 火と光から精霊をつくった。


「よし、これでいくか」


 おれたちは中へと向かった。


 暗い洞窟も光の精霊がいて周囲をともす。 そこは全く生命の存在を感じない無機質な場所だった。


「苔や虫なんかもいない......」


「全部魔力を奪われて死んじゃうから...... ここに長くいたら死んじゃうんだ」


「私の防御魔法なら、ある程度は大丈夫です」  


 エックにネオンがそう話す。


(おれも使えればいいんだが、魔法はよくわからないんだよな。 ブーストとオーラ以外うまく使えない)


『現在の魔力は危険すぎるので私が管理しています。 魔法が使えないのはそのためです』


(そうなの!?)


『モンスターたちの信頼だけではなく、倒したものたちの魔力もとりこんでいるため、負の力もかなり蓄積しています。 もしあなたが負の力に取り込まれた場合、ただ欲望のまま暴れまわる危険な邪神となるでしょう。 そこで私が負の力を正へと常に変換しています』


(なるほど、黎湖(ブラックレイク》のときそういってたっけ、迷惑かけていたんだね。 ごめん)


『いえ、それが神の補佐たる私の役目。 ですが私が何らかの障害により稼働不能になった場合、その負の力の変換はかなり困難になります』


(その時は覚悟するしかないな......)


 おれたちは先へと進む。

 

 黒い魔力がより濃くなってきた。 奥の部屋に何かがいる。   


「グルルゥゥ......」


 それはボロボロの四枚翼をもつ黒い人間のようなものだった。 その目だけがらんらんと輝いて見える。


「魔妖精って、こんな大きいのか!」


『体が変容したようです』


「ガアアアアァァ!!」


 その瞬間、魔妖精は這いつくばるような姿勢でこちらに咆哮した。


 口から砲撃のように黒い魔力がほとばしる。


「くっ...... すごい魔力、マサトさま...... このままだと防御魔法を破壊されます......」


「わかった! 小精霊たち! あれを撃たせるな! 攻撃だ!」


 小精霊が左右から攻撃を加える。 だが全く効いているようすはない。


「ガァァ!!」


 魔妖精はその羽を触手のようにして、小精霊を消し去っている。


(かなり強い! 小精霊が一撃か!)


 おれは魔力剣オーラブレイドを伸ばしきりつけた。


 ガキッ


 魔妖精のその体には届かず、何かに阻まれている。


(効かない!?)


『魔妖精はその表面に魔力の障壁をはっています。 それを切り裂くにはこの魔力では足りません』


(でもこの魔力以上は...... おれの力はまだあるんだよね。 それを解放できない?)


『可能ですが、管理を外すとあなたに一時的に負の力が干渉します』


(かまわない! 倒せなかったらここで死ぬんだから!)


『......わかりました。 管理を外します。 心を強くもってください』


 そういうと、体に力が流れてくるのがわかった。


(魔力が流れてくる...... なんだ。 このどす黒い力、あのバグラの触手より強い! 怖い...... 憎い! 壊したい! 全てを!)


 憎しみ、怒り、破壊衝動が体をめぐるようだった。


(やばい! すこしでも気を抜くと、意識をもっていかれる。 早くあいつを......)


 意識が混濁していく中、魔力を集中しておれは放った。


『精神汚染、危険領域...... 魔力管理を再度......』


 そう精霊ちゃんの声を聞きながら、意識を失った。



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