第19話

「アルラウネ、話にきたんだ。 族長に取り次いでくれる?」


「話...... 食べ物が話? なんの冗談かしら」 


 全方位の茂みが笑うようにがさがさと動く。

 

「いま、モンスターたちを狙うものたちが暗躍している。 そいつらは魔王を復活させようとしてるらしい。 お前たちも危険だ。 話を聞いてくれ」


「ふふふっ、あははっ、それが本当でも私たちをなんとかなんてできないわ。 もちろんあなたたちもね」 

 

 太い根が地面から剥がれムチのようにはなたれる。


 おれたちはその根を切り裂く。


「へぇ、ただのゴブリンとコボルトではないみたいね...... それに人間、変な組み合わせね」


 生き物のようにうごめき根は周囲から放たれてくる。


「マサトさま! やはり説得はむずかしいのでは!!」


「やってもいいですかね!」


「話し合いで解決したかったけど、しかたない。 適度にやっていいよ。 殺しちゃダメだからね」


 おれがそういうと、サクトとゼオンははなたれる根を容易く切り裂いていく。


「なに...... こいつら! 一斉にいくよみんな!」


 根が増えると全方位からドリルのようにねじりながら迫ってくる。


「ライトフィールド」


 ネオンが唱えると周囲に光の膜ができて、根を防いだ。


「なに!! こんな魔法、コボルトが使えるなんて!」


 驚く声が聞こえる。


(精霊ちゃん、アルラウネたちはどこにいる?)


『土の中に隠れているようです』 


「サクト、ゼオン下にいる。 やってくれ」 


「わかりました!! 頼みますサクトどの!  グランドインパクト!!」


 ゼオンが地面を両手で殴り付ける。 


「きゃあああ!!!」


 地面が大きく揺れ、宙に足が根っこのような女性たちがとびだした。


「ハイドロショット!!」


 それを、サクトが水球をだし、圧縮した水流で撃ち落とした。


 ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ


 アルラウネたちは地面でもがいている。


「ぐっ...... なんなの、この強さ...... こいつら普通のモンスターじゃない......」


「族長にあわせてもらいたいんだけど」 


「なにを......」


「いいよデュセ。 つれてきな」


「ババさま!!?」


 奥から聞こえた声に、しぶしぶデュセと呼ばれたアルラウネはおれたちを奥へと案内した。


「でかっ!」


 そこには巨木があり、その幹には彫刻のような美しい老婆がいた。


「私はアルラウネの族長ウェイ。 魔王といってたね。 話しな」


 そう静かながら威厳のある佇まいで老婆ウェイは聞いた。


 おれたちは魔王の復活とそのとき来たバグラのことをはなした。


「......なるほどね。 魔王復活のために魔力を集めている...... か、魔王が倒れてもう千年、ない話じゃないね」


 ウェイは目をつぶり考えている。


「それでお前たちは私たちと手を組みたいというのかい?」


「そうだ。 おれたちはゴブリンとコボルトで手を組んでいる。 その中間にいるアルラウネにも参加してもらいたい」


「......簡単にいってくれるね。 今まで敵対してたんだよ。 それで私たちになんの得がある」


「おそらく、ここも狙われる。 おれたちと組めば安全度はますだろう?」


「ふん、私たちは軟弱なあなたたちと組まなくても守れるわ」


 デュセという少女はそううそぶいた。 他のアルラウネたちもうなづく。


「......すこし考えさせておくれな」


「ババさま! こんなやつらの話信じるんですか!」


「デュセ、この間、ここには入ろうとした者がいただろう。 多分やつらさ。 追い返したが、あれはかなりの力をもつ」


「それは......」


 デュセは言葉につまる。


「魔王復活は私らが奴隷となることを意味する...... むかしそうだったからね」


「しってるの?」


「ああ、私はまだ、幼かったがそれはもう悲惨だった。 魔王はただの欲望の塊さね。 私たちが生きられるのは、すべて喰らい尽くせば魔力がなくなる、ただその一点で生かされてたんだろうね。 ただの養分だ」


「なら......」


「とはいえ、手を組むにはお前たちに犠牲を払ってもらわないといけない」


 そうウェイは冷たい目をむけた。


「犠牲?」


「樹々が枯れているだろう。 ここの魔力が少なくなってんだ。 私はこの一帯を守るために木々から魔力を奪って使ってるからさ。 だから魔力を得る生け贄としてゴブリンとコボルトが必要だ」


「それは......」 


「ふざけるな!」


 サクトとゼオンがそうほえる。 おれはなだめた。


「まあ、まあ」


「しかたないのさ。 私の魔力も衰えている。 ましてや、お前たちの守りまでとなると、全く足りないからね。 その強さ、おそらく族長だろう。 それなら一部の個体ではなく種族を守るのが我らのつとめだろう?」


「ぬう......」


「それは......」


 サクトとゼオンの二人は声を失う。


「モンスターってのは欲深なんだよ。 いや人間だってそうだろう」


「まあね。 でもそれじゃ魔王と同じだろ」


「......そうだね。 だが生物てのはそういうもんだ」


「だね。 でもどうせ欲深なら全部手に入れよう」 


「全部?」  


「誰の犠牲も出さず、なおかつ安全も手に入れればいいんだろ」


「......ふっ、ははははっ、面白いことをいう小僧だね。 いいだろう、それができればお前たちに従おう」


 そうウェイと約束をした。

 

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