第88話 主人公、ついに『ざまぁ』をやります!!

 メイズの魔力は山を吹き飛ばすほどの威力だ。


「くそ、強すぎる!」


 絶望している俺たちにメイズが満足そうに笑いかける。


「ふほほほ。ようやく理解したかの? そう、貴様らは我の気まぐれで生きて、そして気まぐれで死ぬのだ。これが神の力よ」


 俺たちの理解を超えている神。

 人間では天使に勝てないのか?


「こんな事もできるぞ!」


 メイズの目が光る。

 次の瞬間、カイルがだらりと起き上がった。


「復讐……フクシュウ……」


 目に光が無く、ブツブツと『復讐』と呟いている。


「く、カイルを操っているのか!」


「操っているとは、人聞きの悪い。我は彼の復讐ざまぁを手伝っているだけよ」


 メイズの言葉にダイアが激怒する。


「ふざけるな! 貴様がカイル様を弄んでいるだけだろうが!」


「分かってないの~。復讐とは『人に対して』ではない。『理不尽』に対してだ。自分が理不尽な目に遭ったのであれば、その復讐として、他人にも理不尽を与えなければならない。復讐という言葉の意味をもっと勉強するがよい」


「なに言ってんのか全然わかんねーよ」


 カイルがゾンビのようにゆっくりした動きでブルードラゴンを召喚した。

 こんなものが主人公なのか。

 俺の『憧れ』の成れの果てなのか。


「理解したかえ? ならば、復讐ざまぁを受け入れるがよい。さあ、やれ! カイル! 我も汝の復讐ざまぁを手伝おうぞ!!」


 そうしてメイズの精霊石に再び魔力が籠る。

 ブルードラゴンもブレスの準備に入っていた。


「だ、ダメだ! 同時に攻撃されたら、避けきれない!」


 主人公と天使。

 この悪夢の同時攻撃は、回避不可能だ。



「復讐。ああ、そうだ。僕は復讐を……する!!」



 そうしてカイルの目が見開いた。


「死ね!!!」


「ギャアアアアアア!?!?」



 そうしてカイルの操るブルードラゴンがブレスを吹きかけた。



「て、てめぇぇぇぇぇ! カイルゥゥ!! なにしやがる!?」


 メイズが鬼のような形相でカイルを睨みつける。

 怒りと動揺で口調が完全に変化していた。


「ん? 決まっているだろう。『復讐』だよ。貴様風に言えば『ざまぁ』とかいうやつか?」


 カイルはくだらないものを見るように、メイズに向かって吐き捨てた。

 その眼には光が戻っている。


復讐ざまぁなら、勇者どもにやらんか!!」


「なぜだ? 僕に『理不尽』を与えたのは、他ならぬ貴様だろうが。僕の本当の復讐相手は、目の前にいるんだよ」



 まさか……カイルが操られているように見えたのはだった?



 彼は自分がメイズに憑りつかれている事に気付いていた。

 そしてメイズを出し抜くために今まで行動していたのか!?


「この僕を操ろうとしやがって。ずっとこのチャンスを狙っていたんだよ。天使だか何だか知らんが、僕を馬鹿にしたらどうなるか、思い知るがいい!」


 俺とニーナに執拗に復讐しようとしていたのは、半分は操られていたのもある。


 だが、もう半分はあえてをして、メイズを出し抜くこの瞬間をずっと狙っていたのか!!

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