第62話 トランシーバーです

『こちら、ルビア。ただいま、カイルが町に入った』


『グロウだ。了解。そのまま続行してくれ』


 ルビアが俺たちに配ったアイテム。

 それは『トランシーバー』だった。

 これは彼女の特注品であり、見た目はただの『小石』にしか見えない。


 言うならば『小石型トランシーバー』


 これはルビアの魔力の力でテレパシーのように全員の脳内に声が届くアイテムだ。

 このトランシーバーでカイルの状況を全員で共有して、俺に報告する作戦だ。


 俺は『ざまぁ対策本部』をダンジョン内に設置して、そこから無線を受け取っていた。


「悪いな、アビスちゃん。押しかけてしまって……」


「いえいえ、どうかご遠慮なさらず。ずっといてくれてもいいですよ!」


 アビスちゃんは俺を快く受け入れてくれた。

 ありがたい。ダンジョンに隠れられるのは本当に助かる。


 ちなみにトランシーバーの通信範囲は無限らしい。

 ダンジョン内でも問題なく届く。

 石を強く握ればこちらの念話が同じように石を持つ他者に届く構造みたいだ。


『こちら、キラー。こりゃすげえや。本当に念話ができる』


『セシリアです。私の方も問題はありません』


『ネネだよ~。今はお姉ちゃんと一緒にいます』


『フィオナです。こちらはカイル様を尾行中。気付かれている様子はありません』


 それぞれ、きちんとトランシーバーを使いこなせているみたいだ。


『こんなチートアイテムを作ってしまうなんて、ルビアは凄いな!』


『べ、別に。ちょっと時間が余ったから作っただけだし』


『ルビア様はこのアイテムを作るために、毎晩のように夜更かしをしていたのです』


『マジか!? それでいつも眠そうにしていたのか!』



 やる気の無いように見えた悪役令嬢、実は有能でした!



 もうこのタイトルで物語が作れそうである。

 ルビアとフィオナさんがペアでカイルを追跡する役。

 セシリアとネネもペアであり、彼女らはサポート役だ。


 一応、町での顔が利く方なので群衆の中で近づいても怪しまれない強みもある。

 キラーは遊撃隊。

 お世辞にも人相が良くないので、基本的に離れた場所で待機。

 何かトラブルがあれば、対応する。


 ニーナは俺と一緒にダンジョンにいる。

 彼女も恨まれているので、カイルとは会わない方がいい。

 ルビアチームは、定期的に報告を流してくれる。


『カイルって奴、見た限りはそこまでヤバそうな雰囲気はないね。威圧感は凄いけど、殺人狂って感じじゃない。むしろ、おとなしそうな感じだよ』


『確かに元は心優しい少年だったんだ。クソ勇者のせいで心が歪んでしまったんだ』


『そっか~。勇者様のせいか~』


『俺じゃない! 冤罪だ!』


 クソ勇者め。

 本当にとんでもない置き土産を残してくれたもんだ。


『ちなみに、今は酒場で食事を取っているよ』


 カイルは酒場で食事中のようだ。

 これは、ただの腹ごしらえなのか、それとも、何らかの情報を集めているのか。


『カイル様にはお連れの方がおられますね。どなたでしょうか。とても綺麗なエルフです』


『エルフ? ああ、その子はダイアだ。元は奴隷だったが、現状では最強レベルの強さを持つ魔法使いだな。そして、彼らは愛し合っている』


 ダイアは『ゆうざま』においての正ヒロインである。

 俺の初恋だった人なのは内緒だ。


『カイルたちの会話をそっちに流そうか?』


『そんな事ができるのか。やってくれ!』


『オッケー。いくよ』


 ルビアが返事をした次の瞬間、カイルたちの会話が俺たちの脳内に伝わるようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る