第2話 悪役令嬢がこの世界に出現したようです

 ざまぁされる勇者側へ転生してしまった俺。 

 いや、マジで冗談じゃないぞ。

 こんなのは破滅の未来へ一直線じゃないか。

 せっかくスローライフを目指すつもりだったのに、どうしてこうなった!?


「おい、『勇者』さんよ? なんとか言ってみろよ」

 

 今の俺は最低最悪のクソ勇者、グロウ。

 そして目の前にいるのはのカイル

 彼は恐ろしい目つきで俺を睨んでいる。

 やばい。彼は肩書こそモブだが、実質はこの物語の最強キャラにして主人公だ。


 主人公には絶対に勝てない。

 あらゆる意味で最強の補正が掛かっている。

 対して今の俺は勇者だ。


 普通のRPGだと勇者は当たりと思うかもしれない。

 だが、近年のネット小説において、勇者とは最低最悪の『ハズレ枠』と言っていい。 

 特に俺が転生してしまったグロウは、作中でダントツの嫌われキャラなんだ。


 ムカつくから早く死んでほしい。


 読者からは常にそういった感想で溢れかえっていた。

 最初こそちょっと空気が読めない性格の悪い愛嬌あるキャラだったが(作者的に当初はそういう意図だった?)中盤以降は愛嬌など欠片も存在しない上に主人公を追放した完全なクソ野郎として描写されるようになっていった。

 

 最後は嫉妬や妬みで主人公をひたすら邪魔したげく、パーティーのメンバーもろとも生きたままモンスターに食われる自業自得とも言える悲惨な結末を迎える。


 そこが最高の『スカっとシーン』として描かれ、それでこの物語は大人気作品へと上り詰めた。


 『勇者パーティ―に追放された魔物使いの僕、チート能力を手に入れて勇者にざまぁします。いまさら謝ったところでもう遅い!』


 通称、『ゆうざま』である。

 

 つまり俺が転生した勇者はなのだ。

 未来は完全に破滅でしかない。

 今の時代、勇者なんてただのやられ役だ。


 そんなクソ勇者に転生してしまうなんて、最悪のスタートだ。

 これならまだ『モブ』として生まれた方が1000倍マシだった。

 いったい、どうすれば…………


「…………ふん」


 そんな事を考えていたら、カイルが剣を収めた。

 殺気も消えている。

 どうやら見逃してくれるらしい。


「よろしいのですか? カイル様」


 カイルの隣にいるエルフの美少女が疑問を投げかける。

 彼女の名前はダイア。

 この物語のである。


 元々は奴隷だったのだが、主人公が追放された先で買われて、その後に魔法使いとしての才能が開花した。

 主人公には絶対服従の反面、敵には全くの容赦もせずに壊滅する。


 その部分がウケて大人気となっていた。

 クソ勇者パーティーもこのヒロインによって、全身の骨を砕かれるなど、完膚なきまでにボコボコにされていた。

 女でありながらそんな残虐な部分も好かれる一因であった。


「私はこいつを許せません。クズめ」


 そんなヒロインにも完全に敵意を向けられている。

 本当に最悪だ。


 ちなみに主人公のカイルも元は優しい魔物使いだったが、クソ勇者に追放されたせいで残忍な性格へと変貌し、敵を容赦なく殺害するようになった。

 その容赦のなさが人気の秘訣である。


「ああ。いい」


 そのままカイルは去っていった。

 ダイアも後へ続く。

 一応、主人公なので無駄な殺生はしないという事だろうか。


 「た、助かった?」


 いや、違う。

 思い出した。これは『イベント』なんだ。

 クソ勇者のグロウは、『今』は許される。


 しかし、『次の巻』では主人公のカイルたち一行によってグロテスクに殺されるのだ。

 つまり、これはただの延命処置。

 本当の意味で助かったわけではない。

 『破滅』へと秒読みは既に始まっている。

 このままでは俺は間違いなく死ぬ!


 特に転生した『スタートライン』がこの場所なのが絶望的だ。


 例えば、『生まれた時』がスタート地点なら、なんとでもできた。

 いくら将来は最低なクソ勇者になる運命だとしても、その前に善行を積めばいい。


 だが、既に『主人公を追放してしまった』この状態からスタートでは、取り返しがつかない。


 致命的なのは、この作品のサブタイトル『いまさら謝ったところでもう遅い』の部分だ。


 今からカイルに平謝りして許してもらおうとしても無意味だ。

 もう追放してしまった後なので、まさにタイトル通り『もう遅い』のだ。


 くそ、どうする?

 だいたい転生ってのは赤ん坊から始まるもんだろ。

 こんな状態、もう詰みに近い。



「ねえ、聞いた? ルビア様、また一人で部屋に閉じこもっているそうよ」



「…………ん?」


 その時、聞きなれない言葉が俺の耳に入った。

 『ルビア』って誰だ?

 そんなキャラ『ゆうざま』にいたか?


「いや、待て」


 その名前……どこかで聞き覚えがある。


「本当にあの『悪魔の女』。何を考えているか分からないわ。あんなのは『婚約破棄』されて当たり前ね」


「……あっ!」


 その台詞で思い出した! 知っている小説だ!

 こちらも大人気作品だった。



『嫌われ者の悪役令嬢、婚約破棄されたので自由に生きて幸せになります』



 その物語の主人公、ルビアじゃないのか?

 別の小説のキャラクターだぞ!?

 なんでこの物語に別のキャラがいるんだ? というか、ジャンルすら違う。


 同姓同名の別人だろうか?

 いや、なんとなく、本人の気がする。

 だが、これは起死回生のチャンスかもしれない。



 もし、彼女が本当に『悪役令嬢』のルビアだとしたら、この物語のとなる可能性もある。



 悪役令嬢。

 ざまぁ系を凌駕するほどの大人気ジャンル。


 その主人公である彼女こそが俺の運命を左右する重大な人物に違いない。

 よし、会いに行ってみるか!

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