ざまぁされる勇者側に転生してしまった俺、悪役令嬢と手を組んで生き残ります!しかし悪役令嬢はやる気が無い!?

でんでんむし

1章 ざまぁされる勇者とやる気の無い悪役令嬢

第1話 最悪の異世界転生です

 ついにこの時がやってきた。異世界転生である。

 さらば、くそったれの現実。

 ようこそ、夢の異世界転生。

 しかも内容は俺がよく知るネット小説の世界だ。


 『勇者パーティ―に追放された魔物使いの僕、チート能力を手に入れて勇者にざまぁします。いまさら謝ったところでもう遅い!』


 通称『ゆうざま』。

 これはいわゆる『ざまぁ系』と呼ばれる小説で、主人公は『勇者』ではなく、『モブの魔物使い』だ。


 この小説において、勇者とはただの無能者。


 無能なくせに偉そうなクソ勇者。

 そんなクソ勇者に散々こき使われて使い捨てにされ、パーティーを追放された魔物使いの主人公が、その先でチート能力と奴隷エルフ(ヒロイン)を手に入れ、最終的にクソ勇者に『ざまぁ』をする。


 そのスカッとする部分が読者に大人気の物語である。


 恐らく俺はその物語のとして生まれ変わるのだろう。

 そうして最悪なクソ勇者に『ざまぁ』をするのだろう。



 だが、正直に言ってしまえば、俺は『ざまぁ』をする気はない。



 本音を言えば、復讐だのなんだのってのが面倒なのだ。

 そういうのには関わりたくない。


 せっかく異世界転生したのにざまぁの一つもしないとか、なにやってんだよと言われそうだが、それでもやらない。

 この頑固な性格ゆえに生前はひたすら人間関係で痛い目を見た。

 でも、この世界は異世界だ。自由だ。


 だから、俺の好きにさせてもらう。

 俺が目指すべきものは一つ。


 人とは関わらないスローライフだ。


 というわけで、転生して主人公になれたとしても、ざまぁとかはせずに、誰にも関わらない人里離れた場所で暮らそう。

 主人公の地位などいらない。モブで十分だ。

 それが俺の目指す第二の人生。


 さあ、始めよう。


 どうやら転生が完了したらしい。

 目覚めるぞ。



「おい、。聞いているか?」



「…………はい?」


 気が付くと、俺は一人の少年から剣を突き付けられていた。

 目の前の少年は憎しみに満ちた目で俺を見ている。

 彼の事はよく知っている。

 俺が愛読していた『ゆうざま』に登場する『主人公』のカイルだ。



 あれ? なんでこんなところに『主人公』がいるの??



 『主人公』は俺じゃないのか?

 別人に転生してしまったのか?

 いったい誰に転生したんだ??


「…………ん?」


 水面に映る自分の顔を確認する。

 


 こいつの名前はグロウ。勇者というのは名ばかりのただの無能なクソ野郎だ。

 だが、その顔が今、として認識されている。

 つまり、これは…………



「クソ勇者じゃねーかぁぁぁぁぁ!!!」



 俺は!!

 他人にざまぁをするのではない。自分が『ざまぁをされる』立場である。


「なんだこりゃああああああ!」


「さっきからうるさいぞ! クソ勇者!」


「ま、待ってくれ。これは何かの間違いだ。俺の話を聞いてくれ!」


「話を聞け? ふざけるな!」


 俺の話に対してカイルは全く聞く耳を持たない。

 なんか、めちゃくちゃ怒ってる?


「僕が……どれだけその言葉を言っても、お前は話を聞いてくれなかった。それどころか僕を追放した。それなのに、僕はお前の話を聞かなければならないのか?」


 こ、これは……『ゆうざま』のストーリーと全く同じだ!

 つまり、この先のセリフは……


「いまさら謝ったところで、もう遅いっっ!」


 しまったぁぁ! 

 これはの回収!

 そうだ。のだ。

 この場面は主人公がクソ勇者に『ざまぁ』をする名シーンだった!


 そして今は俺がそのクソ勇者だった。

 なんだこれ。どうするんだよ。

 こんな最悪な異世界転生は聞いてないぞ!

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