残り香

@Tirimen_0x0

エピローグ

世間はいつも通りの、変わらぬ休日。


けれど、僕にとっては特別な日。


デート、それはなんて素敵な響きだろう。


彼女のために作った香水のストックを持って、家へ向かう。


——もうこの香りしか受け付けないの。


そんな風に、うれしいことを言ってくれていた。



彼女の住む場所は少し田舎で、香水を販売するのは難しい。


だから、一緒に暮らせない。


寂しいけれど、あった時の喜びを思うと


離れて暮らす良さもあると思える。


2人で会うのは、月にたったの2回だ。


少ないからこそ、その日を大切にできる。



電車に乗って、最寄り駅まで向かう。


途中、連絡が入った。


なんと、彼女は寝坊をしてしまったらしい。


そんな僕も、今日は少し寝不足だ。


仕方の無い人、そう思いながら家へ向かう。



小一時間、電車に揺られ最寄り駅にたどり着く。


メッセージで駅に着いたよと送り、彼女の家へと足早に向かう。


この前、美味しかったと言っていたパン屋さんや、気になると言っていたケーキ屋さん。


なにかの記念は無いけれど、見つけたことだし買ってみようか。


歩けば歩くほど、荷物が増えていき思わず笑顔になってしまう。


この場所には、彼女の思い出がたくさん詰まっていて、まるで、2人で歩いているような感覚になる。


そうすると、いつの間にか家にたどり着いていた。


手荷物を見て、少し反省しながらインターホンを鳴らす。


反応がない。


いつもなら、声をかけてくれるのに。


駅で送ったメッセージには、既読がついていたから寝ているはずはないだろう。



少し迷ったが、合鍵を使って中に入ることにした。


入ると部屋には、僕が彼女のために作った香水の匂いが立ち込めていた。


自分に着けたにしては、香りが強すぎる。


何があったんだろう。


不思議に思い辺りを見渡すと、少し床が湿っていた。


香水を部屋中に撒き散らしたのか。一体なぜ。


その時、ふわっと風が吹いた。


視線をやると、窓が空いている。


香水を零してしまったから、換気をしたかったのか。


ところで、彼女は一体どこにいるんだ。



立ち上がり窓の方へ進むと、なにかに躓いた。


やわらかい、けれどそれなりの重量感のもの。


下を見ると、そこには彼女が寝転がっていた。


床で2度寝をしたのか。


教の彼女の行動はいささか不思議だと思いながら、肩を叩く。


全く反応がない。様子がおかしい。


そんな、まさか。そんなはずはない。


震える手で、首を触る。


触れた皮膚は、まだ温かかった。



病院に電話して、それから。


彼女はどうなる。生きているのか。


警察は、呼ぶべきなのか。


僕は何をすればいいんだろう。


もう、なにもわからない。



救急車と警察が来て、いろいろ話を聞かれたが記憶はない。


遅くまで拘束されたことと、彼女が死んでしまった事実だけが残ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る