お祈り

 一年間で三回、ちょっとエッチなことをして、コウちゃんは死んでしまった。

 死んじゃった。

 コウちゃんがもう二度とやってこない部屋の中で、呟いてみる。

 おじいちゃんやおばあちゃんのお葬式に行ったことはあるけれど、自分と同年代の人が身近で死んだのは、はじめてだった。

 万年床に転がって、死んじゃった、死んじゃった、と何度も呟く。全然口になじまない言葉で、コウちゃんが死んじゃった、とつなげて口に出してみても、ちっともピンとこなかった。

 ぼうっと天井を眺めながら、コウちゃんが死んじゃった、と時々呟いてみていると、こんこん、と、玄関のドアがノックされた。夢菜だ。夢菜はいつも、インターフォンを押さない。

 「どうしたの?」

 ドアを開けると、外はもう真っ暗だった。夜の冷気が滑り込んできて、ぶるりと肩が震えた。

 「どうもしないけどね。」

 夢菜は私を押し込むみたいにして部屋に入ってきた。

 「一人になったら、なんかちょっとね。」

 夢菜の言いたいことは、私にも分かった。なんか、ちょっと、なのだ。上手く言えないけれど、ちょっと。

 夢菜は私の前に立ってどんどん部屋に入って行き、テーブルの前に座るとくるりと膝を抱えた。

 「ねえ、お葬式しない?」

 「お葬式?」

 「うん。コウちゃんの。」

 お葬式、ね、と繰り返してみながら、私は夢菜の向かいに腰を下した。

 夢菜はこくこくと頷いて、人差し指を立てて提案してきた。

 「お花と写真飾って、お経なんか読んじゃって。」

 「お鈴なんか、鳴らしてね。」

 「お鈴?」

 「ちーん、ていうやつ。」

 「蘭子、案外詳しいのね。」

 「ちょっとだけね。」

 そんなことを言いあいながらも、私たちにだって分かってはいた。私たちには、コウちゃんの写真なんか一枚もないし、そもそもコウちゃんは、お葬式とか、形式ばったことは嫌いだった。でも、なにか適当なことでもいいから、言い合っていないと空気が保てなくなりそうで、保てなくなった後、どうなるのか、考えるのだって、怖くて。

 「お寿司とか、食べようか。」

 「精進落しね。」 

 「やっぱり蘭子、案外詳しい。」

 「まあね。案外ね。」

 お花とお寿司だけでも準備してみようか、と、私たちは近所のスーパーに行こうとした。コウちゃんといつも、お酒を買いに行ったスーパーマーケット。

けれど、夢菜は腰が抜けたみたいにその場に座り込んだままだった。それは、私も。

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