十一話 生きる理由探し

「気づいていたんですか?」

「いや半信半疑だった。賢いレイアが気づかないものかって。でも、わかっていない可能性もあるだろ? だから怖くてはっきりさせられなかった」

「なるほどね〜。じゃあ外出を許可したのは……」

「そうだ。外に出ればそれがわかるだろうからな。ちょうどレイアからの願いもあったし、良いチャンスだと思った」


 アオの言葉を引き継ぐ形で行動の意図を説明してくれる。


「あいつには辛い思いをさせちゃったな。俺が臆病なばかりに寄り添ってあげれず苦しめてさ。最低だな……」

「最低なんてことないです!」


 僕は衝動的に立ち上がって、机に両手を置いて前傾姿勢になる。否定しないといけないと強く思った。


「ユウ……?」


 困惑するアオは気にせずカイトさんとしっかりと目を合わせる。


「レイアちゃんを想ってのことを否定しないでください。きっと苦しみ以上にカイトさんといれることが幸せだったと思います。それに、取り返しがつかなくなる前に気づいて行動しています。臆病なんかじゃありません」


 自分を責めないで欲しかった。僕のような人間がいるのだから。


「……ユウワくん」

「レイアちゃん言っていました。カイトさんのために知らないふりをしてたって。お互いに助けようとしていたんです。だから……!」 


 無我夢中で言葉を続けようとすると、カイトさんに手で制される。


「ありがとう、俺のために一生懸命になってくれて。君は優しいんだな」

「カイトさん……」

「色々ネガティブなことを考えるのは止めるよ。レイアと別れる時は笑顔でいたいしな」


 歯を見せて笑った。どこか憑き物が落ちたような清々しい笑顔で。


「そういや聞いてなかったけど、レイアの未練って何だったんだ?」

レイアちゃん、妹なしでお兄さんが生きられるか不安なんだって。だからだーいじょぶなことを示さないといけないかな」

「……あいつは本当に良い子だなぁ」


 カイトさんは愛おしいそうに目を細めた。しかしすぐに悩ましげに目を伏せる。


「けど、正直あいつ無しで生きてる自分の姿を想像できないんだよなぁ……」

「う~ん、他に生きがいとかないの? 趣味とか」

「両親が死んでから、あいつを幸せにするためだけに働いて生きてきたからなぁ」


 他にアイデアが無いか考えるも有効な手立ては見当たらなかった。しかし、別の問題の解の糸口を気づいてしまう。


「あの、カイトさん未練がわからないって言ってましたけど、もしかして自分が幸せにできたか不安なことが未練なんじゃ?」

「あ……そうかも。いや間違いなくそれだ」

「おおっ、やるじゃんユウ〜」


 直接、霊関係のことで役に立ててほっとする。これでいる意味があるのだと思えた。


「それなら、きっと幸せにできただろうしだーいじょぶだね」

「そう思いたいけど、結構面倒がられてたし本当はどうだろうか。それに、その時になったらレイアのことだから気を遣ってしまうかも」


 未練が判明すれば、すらすら解決できると勝手に思っていたけど、一筋縄ではいかなそうだ。


「ふっふっふ。レイアちゃんの未練については私に任せて。良い考えが浮かんだから」


 アオは自信に満ち溢れた顔をしてサムズアップする。


「本当? じゃあ後はカイトさんのことだけだね」

「……無いんだよなぁガチで」

「それなら、見つけなきゃだね!」


 この考える時間は終わりだと言わんばかりにパンと手を叩いた。


「見つけるって?」

「そりゃあ探しに行くんだよっ」


 


 まず僕達三人はイシリス商店街に足を運んだ。昼時を過ぎているから人通りは少なめだった。


「例えば、ここによく通ってたな〜みたいなお店とかなかった?」

「節約のために外食とかしなかったからな」

「なら、好きな物をよく買ってたみたいなことはどうですか?」

「レイアのためにプレゼントとか買ってたけど、俺自身のは無いな」


 手持ちの生きがいはここには存在しないようだ。そのため、僕達は生きがい候補としての飲食店や雑貨屋などを回ることに。けれど、カイトさんがピンとくるものは見つけられなかった。


「じゃあここはどう? よく来ていたんでしょう?」


 続いては東のエリアのスタジアム前にやってきた。


「そうなんだが、それはレイアに色々体験させたかったからなんだ。そこまで好きって訳じゃない」

「でも、今見たら面白いかもよ?」


 アオが提案するも、カイトさんは渋い顔をする。


「いやー結構見たけど長いし、競争とか好きでもないしな」

「あ、それわかります。勝ち負けとか決まるの嫌ですよね」

「えー? それがあるから熱くなれるし面白いのにな〜」


 価値観の違いを知っただけで収穫は無く、それから候補になりそうな施設に行ったがやはり駄目で。しばらく歩き回って疲れたので僕達は一旦、イシリスタワーの近くのベンチで休憩することにした。


「本当、妹一筋縄だったんだね」


 僕を挟んで座っているカイトさんにアオが話しかける。


「ああ、あの日、タワーの事故で両親を失ってからはずっとな」

「タワーの事故?」

「……六年前のことだ。半年前と同じように亡霊が暴れ出したことがあってな。その時に建設中のタワーにも被害があって、部品やら破片やらが地上に落下。それに俺の親が巻き込まれた」


 タワーを見上げて、過去を見ているかのように語ってくれる。


「そうだったんですね。すみません変な事を聞いてしまって」

「いいんだ。もう昔のことだ。それに、もうそんな事が起きないように、今の仕事を選んでやっているわけだしな……あっ」


 カイトさんは何かに気づいたように声を出した。


「それがこれから生きる理由になるかもしれん。レイアの為、がむしゃらに働いていたから、いつの間にか忘れていたみたいだな」


 肩を竦めて苦笑する。


「これなら多分いけると思う。レイアを安心させられるはずだ」


 カイトさんは晴れやかな顔つきで、イシリスタワーを見上げる。瞳に強い生気を宿して。

真上にあった陽は次第に傾き出していた。

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