第21話 婚約の話 ※ウェヌスレッド視点

 年齢的に、僕もそろそろ将来について真剣に考えないとダメな時期か。今のような気ままな生活は、いつか終わりがくる。それまでに覚悟を決めないといけない。


 だけど僕は本当に、権力とか財力とかには全く興味がなかった。そんなものは面倒だと思っていた。幼い頃から父や兄たちの姿を見ていたから。彼らが付き合う相手の醜さを目の当たりにしてしまったから。


 父や兄たちは本当に凄い。あんな者たちを相手にしながら、上手く対応しているのだから。僕には出来ない。貴族社会に溶け込むことは不可能。


 自分の性格はよく理解しているし、今さら直せるとは思えない。


 厄介なのは性格だけじゃない。この自分の顔も、色々と面倒だった。皆は羨むけれど、僕は凄く嫌だ。とにかく目立ってしまう。注目なんて集めたくないのに。面倒で厄介な出来事を引き寄せてしまう。


 この顔を上手く利用すれば、もっと楽ができるかもしれない。だけど残念ながら、僕はそんなに器用でもなかった。


 なので関わらないように、屋敷の部屋に籠もって過ごすのが一番。平穏で安らかな生活を送りたい。それが、僕の望みである。




 今日も自分の部屋で1人、ぼんやりと考えていた時に舞い込んできたのが、婚約の話だった。


 カナリニッジ侯爵家の当主と婚約する。相手は貴族の令嬢ではなく女当主らしくて、珍しいと思ったのが最初の印象。


 今まで自由にさせてもらったからこそ、そろそろ僕も覚悟を決めないといけない。しばらく前から悩んでいた、自分の置かれた現状。変わらないといけない。


 こうやって自由を許してくれたノルイン公爵家には、いつか恩返しをしたい。そう思っていた。婚約するのが恩返しになるのかどうか、それは分からない。


 僕に縁談の話を持ってきたということは、カナリニッジ侯爵家と繋がりを持ちたいという思惑があるのだろう。そのために婚約するのは、僕でも家の役に立てるということ。そう考えた。


 当主である父の指示に従い、婚約の話を受けることにした。受けると返事をするとトントン拍子で話が進み、婚約相手との初対面の日が即座に決まってしまった。


 こんなに早く、話が進むなんて驚いた。まだ心の準備が出来ていない。もう少し、時間が欲しい。だが、先延ばしにすることは出来ないだろう。


 予定通り、婚約するという相手と会うしかない。


 だけど、憂鬱だな。どんな女性が来るのか不安だ。父が話を持ってきたということは、調査済みで問題ない相手だと思うが。どうだろう。

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