第20話 彼の事情

「僕が社交界に出ない、って話は知っているかな?」

「あ、はい。聞いたことがあります」


 そう語り始めたウェヌスレッド。彼が社交界に出てこないという話は、事前に調べた情報で知っていた。外にも出ず、屋敷に籠もっているらしいが。


 どういう理由で外に出ないのか、気になっていた。


「こういう顔だから、いろいろと弊害も多くてね」

「そうなのですか?」

「うん。こっちは何にも思っていないに、男から勝手に敵対されたり嫉妬されたり。見知らぬ女性から婚約の申し込みが殺到したりとか、変な噂を流されたりとか。本当に面倒なことが沢山ね」


 心の底からうんざりしていると言いたげな表情と口調。確かに彼の美しい顔立ちは目立つだろう。嫉妬を向けられ、異性から恋情を抱かれそうだ。容易に想像できる。それを彼は、嫌だと感じているようだ。


 私は申し訳なくなった。隠れて愛人を作っているとか、彼のこと何も知らないのにそんな想像を膨らませてしまって。失礼なことをしてしまった。


「だから僕は、面倒なことに巻き込まれないようにして静かに暮らしたい。付き合う相手も、なるべく少なく減らして生きていきたいんだ」


 真剣な眼差しを私に向けながら、ウェヌスレッドは言った。本気なんだと思った。彼がどれだけの苦労をして生きてきたか、全ては理解できない。だけど、その目を見たらわかる気がした。本当に大変だったということを。


 そんな彼が私と一緒になる。それを彼は、望んでいるの? 嫌じゃない?


「結婚する相手は、私で、いいのですか?」

「君で問題ないよ」

「どうして、ですか?」


 問いかけると、即答してくれた。さっき出会ったばかりなのに、そう思った理由が知りたかった。


「なんとなく、かな?」

「なんとなく、ですか?」

「うん。話を聞いて、楽そうだとも思ったから。シャロットがパートナーで構わないよ。だから改めて、よろしくね」


 深い理由はない。本当に、それで大丈夫なのか。でも、きっと大丈夫なのだろう。私も、なんとなくそう思った。


「はい。よろしくお願いします」


 微笑みながらウェヌスレッドが手を差し出してきたから、私はその手を笑顔で握り返した。お互いに都合のいい関係だ。彼なら、私の仕事に口出ししてこない。跡継ぎ問題も解決できる。


 私も、ウェヌスレッドの望みを叶えてあげたい。彼が静かに暮らしていけるように、協力したいと思う。


 そもそも、ノルイン公爵閣下から提案してもらった話を断るわけにはいかない。想像していた以上に良い話だったので、これで問題ない。


 こうして私とウェヌスレッドはお互いの事情に納得して、結婚することを決めた。

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