第17話 ノルイン公爵家の子息

 ノルイン公爵閣下にローレインについて情報を提供した見返りとして、婚約相手を紹介してもらうことになった。


 その相手というのが、ノルイン公爵家の子息。跡継ぎ問題で悩んでいた私にとって、願ってもない提案だった。


 公爵家の子息なら、家筋に問題はない。むしろ、好都合なくらいだ。最近は領地の経営も順調で噂にもなっているらしい、カナリニッジ侯爵家とは繋がりを持ちたいという強い意志を感じる。


 けれど、ノルイン公爵家と友好的な関係を築けるのなら、こちらにも大きな利点がある。取り込まれてしまう可能性もあるが、そのリスクは承知の上での決断。


 だから私は、ノルイン公爵閣下の提案を受け入れた。打算的に判断して、縁を結ぶことを決めた。


 あとは、実際に会ってみてから人物を判断するだけ。それが少しだけ心配だった。ノルイン公爵閣下は、少し変わった息子と言っていたから。




 本人と会う前に情報を集めようとしたのだが、ノルイン公爵閣下の息子に関しての詳しい情報は得られなかった。どうやら、社交界に出ていないようだ。いつも屋敷に籠もって、貴族社会に関わることを避けている。そんな話を耳にした。


 なるほどね。これが、変わっていると言った理由なのかしら。


 どうして貴族社会と関わるのを避けているのか、その理由は謎のまま。表舞台に出ようとしないのは、出世欲が薄いためか。そうであれば、私にとって都合がいいかもしれない。


 私が婚約相手に求めているのは、跡継ぎを残すことだけ。子作りに協力的で余計な口出しをしない人物なら、それだけで十分。


 そんなことを考えながら、私はノルイン公爵家が所有する屋敷に到着した。ここに、婚約相手が待ち構えているらしい。約束を取り付けて、婚約する相手とは今日が初めての顔合わせ。やはり、少し緊張する。


「シャロット様、目的地に到着しました」

「ありがとう」


 馬車が停まり、御者がドアを開ける。馬車を降りると、門の前に立っていた男性が近づいてきて、私に向かって丁寧に頭を下げる。


「お待ちしておりました、カナリニッジ侯爵様」

「本日は、よろしくお願いします」


 ノルイン公爵家の執事だろう。しっかりと教育された熟練の執事に誘導されて、屋敷へと入る。


 広いエントランスには、数人の使用人が控えていた。その表情は好意的。私に対して、悪い印象を持っていないように見える。拒否されたり、嫌な雰囲気はない。


 歓迎されているようね。婚約相手になる人も、彼らと同じように歓迎してくれると嬉しいのだけれど。どうなるかしら。

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