第7話 そして彼らは追い出された
「水に流すなんて、あり得ません。婚約破棄も撤回しません」
「な、なぜだ!?」
デーヴィスは狼狽える。本気で元通りに出来ると思っているみたいだけど、それは無理だ。
「口から出してしまった言葉は、二度と元に戻せない。それが、当たり前のことですよ」
「そ、そんな……」
元通りにはならないと理解して、ショックを受けデーヴィス。現状に文句を言わず大人しく受け入れておけば、こんなことにはならなかったのにね。
これで話も終わりかと思ったら、ローレインは自信満々の表情。まだ何か、あるらしい。この幼馴染の女も、本当に厄介ね。
「ふん! 女当主なんて絶対に失敗する。そうに決まっているわ! せっかくデーヴィスがカナリニッジ侯爵家を受け継いで存続させようとしてくれているのに、それを断った愚かな女よ、貴女は!」
「……愚か? どこがですか?」
「だってそうじゃない。アンタみたいな小娘に、侯爵家の当主が務まるとは思えないのよ」
女だし、若いからダメ。だから失敗すると決めつけて、高笑いするローレイン。それに対して、私は特に感情を動かされることはなかった。
何を言われても、私の心は揺るがない。
「そうですか。それでは2人とも、さっさと屋敷から出て行ってもらえますか? これから私は、処理しないといけない仕事が残っているので」
「ふんっ!」
「やめるんだ、ローレイン。違うんだよ、シャロット。勘違いしていただけなんだ。だから、ちゃんと話し合いを……」
馬鹿にしたように鼻を鳴らすローレインと、まだ縋りつこうとするデーヴィスの2人を追い出すよう、部下に指示を出す。
「ちょっと! 触らないでよッ!」
「待ってくれ、まだ話し合いを!」
暴れる2人を部下が取り押さえて、部屋から追い出してくれた。そのまま、デーヴィスの実家であるライトナム侯爵家に送り返す。
これでようやく、静かになってくれた。
今回の件でライトナム侯爵家が文句を言ってくるのであれば、カナリニッジ侯爵家を乗っ取る企てについてチラつかせながら反撃する。この切り札があれば、有利に立ち回れるだろう。
うるさい連中が居なくなって、ホッと一息つきたいところだ。けれど、彼らが居なくなったせいで大きな問題が生じてしまう。後継者問題をどうするのか。これは、解決するのが非常に困難な問題だ。
「はぁ……」
解決の目処がたたずに、思わずため息が出てしまった。どうにかしないといけない。けれど、今はどうしようもない。
その問題は後回しにして、目の前にある当主としての仕事に集中することにした。とにかく今は実績を作り、周りに私がカナリニッジ侯爵家の当主であることを認めさせる。信用を得る。それが先決だろう。やるべきことは、まだたくさんある。
屋敷から追い出したデーヴィスの幼馴染であるローレインは、また別のところで大事件を起こすことになる。そして、彼女の起こした事件がキッカケとなって新たな縁が繋がり、カナリニッジ侯爵家の後継者問題が無事に解決することになるなんて、この時の私はまだ知る由もなかった。
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