第6話 女当主
「デーヴィスがカナリニッジ侯爵家の当主になる予定なんて、初めからありません。その事は、ちゃんとライトナム侯爵家にも説明しているはずですよ」
「なっ!?」
私がそう伝えると、デーヴィスは絶句した。その表情は、絶望に染まっている。
「そ、そんな……。う、嘘だッ! それじゃあ、誰がカナリニッジ侯爵家を継ぐっていうんだ!」
「もちろん、私です。私が、カナリニッジ侯爵家を継ぎます。もしくは、私の子が」
「い、いや! おかしいだろう? だって、お前は女だろ!」
「そうよ! 女が爵位を継げるわけ、ないじゃないの!」
私の言葉を聞いて、デーヴィスは騒ぎ出した。幼馴染のローレインも、彼に続いて騒いでいる。私が間違っていると。
この2人は、本気でそう思っているらしい。女性が貴族の当主になるのは、不可能だと。
「おかしいことは何もありませんよ。この国では、女性が当主になる事が認められています。珍しいことですが、過去にも何度か当主の座を女性が引き継いだ事例が存在しますから」
「だ、だが……」
「カナリニッジ侯爵家の次期当主の問題については、既に王家とも相談済みですよ。引き継ぎの準備も最終段階に入っています。後は、私の一存でいつでもカナリニッジ侯爵家を継げます」
「そんなこと、俺は何も聞いていない! 婚約相手に黙って、そんなことをしているなんて!?」」
「そ、そうよ! そんな勝手、許されるわけないじゃない!?」
デーヴィスとローレインは納得せず、なおも噛み付いてくる。本当に、彼らは何も考えずに屋敷で過ごしてきたのね。その能天気さに呆れてしまう。
私は深いため息をついてから、彼らに告げる。本当に疲れるから面倒だけど。
「聞いていないも何も、あなた達は毎日、好き勝手に遊び惚けていただけじゃない。私が領主の仕事をしている間にも、あなた達は遊び呆けていたのよ。そんな身勝手なあなた達に、わざわざ報告する義務なんてないわよ」
「……」
ようやく状況を理解したのか、黙り込んだデーヴィスとローレイン。しかし、悔しそうな表情で睨んでくる。納得はしていないか。まぁ、彼らが納得していなくても、このまま話を進めるだけだ。
「誰か! 彼らを屋敷の外へ」
そう思って、部屋の外に控えている兵士たちを呼び出す。彼らを追い出すために。しかし、その前にデーヴィスが口を開いた。
「待ってくれ?」
「……なんですか?」
聞いてやる義理もないが、一応反応してあげることにする。さて、これからなんと言う気かしら。そう思って構えていたら、予想外な言葉が聞こえた。
「わかった。今までのことは水に流そう。だから、俺たちの婚約を破棄するのも撤回してくれないか?」
「は?」
予想外すぎて、口から声が漏れる。
デーヴィスが、私に向かってそう提案してきた。こんな状況になっても、彼はまだ諦めていないらしい。本当に、愚かな男。
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