親友が売られてたからとりあえず買ったけど既に『調教済み』だった件~男娼奴隷のメンタルケア~
八幡寺
1:再会はバーゲンセール
まずい。在庫切らした。
この街では思った以上に商品が売れて、俺も調子に乗って、気分よく大盤振る舞いし過ぎてしまった。
結果、次のエリアを巡回するのに必要な日用品やら何やらまで、すっかりスッカラカンにしてしまったのだ。行商人としてあるまじき失態だ。
「マッズいなー。赤字覚悟で買い直すか? いやでもなー。今回の売り上げを無駄にしたくないなー」
不満を独り言ちて、しばし考える。
夕暮れの街並みに、屋台を背にして、影法師を眺めていると、不意に老婆が現れた。
俺の名前を親しげに呼ぶのは、なんてことはない。この度の巡回で贔屓にしてくれたおばあちゃんだ。
「ありゃりゃ、ラクトや。もう閉めちゃったのかい」
「おばちゃんごめーん! もうワラの一本も残ってないや!」
「ありゃー、そうかい。仕方ないね。なら、明日のバーゲンに期待するしかないね」
「バーゲン? おばちゃん、明日って何か催しがあるのかい?」
聞けば、明日は年に一度のバーゲンセール。この街の様々な商人、鍛冶屋も細工屋も、娼館だって一斉に集う大市場が開催されるようだった。
おばちゃんは、一日だけ待って、そこで入用なものを揃えればいいのに、わざわざ俺を頼って来てくれたのだ。申し訳ない。次の巡回では、サービスするよ。
それはそうと、これは渡りに船だ。
俺も明日、バーゲンに乗り込んでみるか。こりゃ、また儲けられそうだ。
そうと決まれば、意気揚々と、屋台を引いて撤収するのだった。
そして翌日。
俺の読みは、的中した。
「このフライパン、本当に買い取ってくれるのか!? こっちの錆びまみれの鎌もいいのか!?」
「はいはい! 喜んで買い取らせて頂きますとも! 新品に買い替える足しにしてくださいよ!」
「折れた裁縫針なんかもどうかしら?」
「あー! 流石にそれはすみません! ですが、無料でお引き取りしますよ! あぶないですからね!」
俺の屋台の看板にはこのような文言が書かれてある。
【不用品買取いたします。お買い換えの際の手助けに!】
早朝から、街中を練り歩いて宣伝しまくった甲斐もあった。
みんなすっかり、ボロボロの日用品やら、使いかけの軟膏までも、ごっそり持ってやってきた。
安く買いたたいて、リサイクルして、次の巡回先で売るのだ。
ほとんどゴミのように見えるものでも、ちょっと手を加えれば見違える。それに、みんな不用品だと思って持ってくるもんだから、極論、買いとることすらしなくていいのだ。ちょっと理由をつけて、無料で引き取るといえば、相手さんは持ってきた手前、邪魔なものは処分したい。すっかりこっちの言い分を鵜呑みにして、無料で手渡してくれるというわけだ。
まあ、全部をそんなことしてたらアコギな奴だと吊るしあげられる。
適度に買い取って、状態の良さそうなものはちょっと色を付けて、何割かでも満足させてやれば遺恨は残さないものだ。
ちゃっかり、掘り出し物にも出会えた。この試みは大成功だ。
「おい! そこのお前! 誰の許可を得てここで商売をしている!」
しばらく繁盛させていると、憲兵がやってきた。
「商売? ……してないけど?」
だから本当のことを言ってやる。
物は売ってない。買い取ってただけだ。
それはここに集まる人たちも一斉に証言してくれた。
「バーゲンの場で、物を買うのは、どんな法律に違反するんだい?」
「うぐぐ……だ、だが、紛らわしく店を構えるのはいかん! 引き上げなければ、公務執行妨害で逮捕だぞ!」
やれやれ。頭の固いお役人だ。
まあ俺もぼちぼち、潤った。ここいらが引き際なのだろう。
「はいはい。わかりましたよ」
言われるがままに撤収することにした。これから憲兵は、まだ不用品を買い取ってもらえていない市民に睨まれ、文句の嵐を浴びることになるのだが、その前に俺はそそくさと逃げおおせた。
そして、暇になる。
なので、本当の掘り出し物を探しに大バーゲン市場へと、今度はちゃんと客として、足を運ぶのだった。本当に、かなり大規模に露店が開かれて、価格も大盤振る舞い。買わなきゃ損ってなもんだ。
「さあさあ! 寄ってらっしゃい買ってらっしゃい! 奴隷はいかがかね!? 家事でも買い出しでも! 何でも雑に使える万能奴隷を、本日はお求めやすい価格でご提供ー!」
そんな声に、思わず吹き出してしまう。
まさか、奴隷までバーゲンに並ぶのか。本当に凄いイベントだな。
だが、いくら買わなきゃ損だと言っても、奴隷は流石に高すぎる。本来の相場でいっても、一体あたり平均的な国民の十年分の年収に相当する。
バーゲンでどれだけ安くなるのか、知的好奇心で見に行こうとは思うが、流石に大赤字待ったなしの買い物をしようとは思わない。
ま、見に行こうとは思うが……。
宣伝の声がする方へ、吸い寄せられるように向かう。
そして、俺は、彼と出会った――。
青いボサボサの長髪に、顔を半分隠してはいたが、俺は一目でわかった。
同じ村で共に育った、俺の親友……。
「ルース……?」
全裸で、骨の浮いた貧相な身体を隠しもせず、もはや絶望すら感じない、虚無の瞳が……俺を見た。
「ラ、ラク、ト……?」
ルースだ。ああ、嘘だろ。なんでお前がそこに……!
たまらず、俺は声を荒げた。
「
「おおーっとお客様! お目が高い! 彼は旧王政の騎士団でありながら、旧王の寵愛を受け……」
「そんな事はどうでもいいんだよッ! さっさと会計を済ませろ!」
「……ですが、大変失礼ですが、この奴隷は目玉商品でして、流石に、一介の小市民には手が届かないかと」
イライラする。早急にルースを、親友をこの場から引き離さなければならない。
使命感に駆り立てられた俺は、有り金を全部、そいつの顔面に叩きつけた。
平均的な国民の二十年分の年収とほぼ同額だ。
「お、おほほほ! まま、ま、毎度ありぃいいー!」
嬉しそうにしっぽを振る店主。
ざっと見渡した奴隷各々の値段から、ルースのものとおぼしきものを見つけていた。それだけあればさすがにお釣りがくる。
だから言ってやるのだ。
「バッカヤロウ! 釣りはよこせッ!」
かくして、十二年ぶりに、親友との再会を果たした。
大分、互いの立場は、違ってしまったようだけどな……。
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