御老公

森下 巻々

ミトミツクニ

   *

「シュシュンスイ先生が亡くなられて、もう一三年じゃ……」

 カクノジョウが、大日本史編纂に向けての原稿の一つをミトミツクニに確認してもらったおりのことである。

 シュシュンスイとは、ミツクニが敬愛した学問の人である。これより、一三年ほど以前に亡くなっていた。ミツクニは、彼の立派な墓を建て、末永く祭ることを考えてきた。

 カクノジョウは、

「は、はい。墓碑とその周辺の準備は整いつつあるとのことでございます」

「そうか。それでは、最近のキクどのの御様子は如何かな」

 シュシュンスイは、生前、娘連れの未亡人を愛していた。彼女らは、現在、或る聚落の外れにて、シュシュンスイの弟子の一人と共に暮らしている。ミツクニも彼女らのことを気に掛けてきていて、幾度か、その場所へとお忍びで出向いたことまであった。

「もう、キクどのも三十路を超えたのではないのでしょうか。娘子も無事に成長しております。元気にしておられるようです」

「先生の御墓の完成の前に、お会いしに行きたいのお」

「左様でございますか。それでは、久しぶりの遠出となりますね」

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