ど
金属を通して、プツッという手応え。
と、同時に。
「ギャーッ」という猫の声が辺りに響き渡りました。
釘を打たれた痛みで、猫は目を覚ましたようです。
猫は悲鳴を上げながら狂ったように暴れました。
でも、大丈夫。
そんなこともあろうかと、幹にガムテープでぐるぐる巻きにしてあるのです。
猫は逃れることができず、もがき、鳴き叫びながら、片方だけの目で私を凝視しています。
懐中電灯の光の中で、怒り狂った猫の目は葡萄の実のようなみどり色をしていました。
悪鬼さながら苦悶の形相をした猫の、残ったその右目だけが美しく、ちょっぴり美味しそうに見えます。
私はもっと深く釘を打ちます。
最初のうちは硬く、力いっぱい金槌を使っても堅いものに阻まれているようでしたが、突然手応えが変わりました。
どうやら頭蓋骨を貫通した釘の先が木の幹にまで達したようです。
するとそれまで「ゴッ、ゴッ」と鈍い音をさせていた金槌の音が「カーン、カーン」と心地よく響くようになりました。
その音が猫の叫び声と相まって山の中に木霊するのです。
風が渡りました。
木々の葉をざわりと揺らして通り抜けていきました。
どこか遠くで山に棲む獣か怪鳥の「ぼう、ぼう」と鳴く声。
マスカット色に輝く猫の右目が私を見ます。
私はもう一本の釘を出し、その目に狙いをつけました。
そして金槌を振り落とします。
「プツッ」
「ゴッ、ゴッ」
……二度目は一度目と同じです。
猫は叫びを止めません。
しなやかな体をぐるぐる巻きにされて、美しい両目を失った猫は、いまや叫ぶ口だけの化け物です。
その口は赤く、歯は黄ばんで鋭く、醜い。
口の端には血の泡が滲んで、ひどい口臭がしました。
あんまり激しくもがくので、ガムテープが少し剥がれてしまいました。
正確にはガムテープが剥がれたというよりは、頭から耳にかけての毛が抜けて、そのぶん猫の本体が動けるようになった状態で、その姿はますますちっぽけな怪物じみています。
もちろん、それくらいのことは何の問題もありません。
そのまま金槌を使ううち、左の時と同じように、また音が変わって、「カーン、カーン」となりました。
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