星の魔道具師

如月 梓

第1話

かつてこの星では核戦争がおこったらしい。


戦争が激化するにつれ世界では人類が生存できる場所が減っていき、人口も激減した。


核戦争のせいで人口が減ったのとともに、人間が外に出ることができなくなったため戦争の兵力は次第に機械へと移っていった。


そこで世界中の国々はAIの開発に力を入れ始める。


戦争は一気に機械によるものとなっていった。


戦争の激化に伴い急速に進化していく技術の中で一人の天才があるAIを開発。


そのAIは世界中のAIへと侵入し、人間からすべてのAIを奪い取った。


核の影響で外に出ることもできない人類には対抗するような手段もなく、世界はAIによって管理されるようになる。


結果として戦争は終了し、世界は平和なものとなった。


しかし、この時AIを開発した研究者を生き残った人類が殺害。


それによってこのAIを止めることのできる人間はいなくなってしまった。


それからすぐにAIは開発者の願いである平和な世界の実現のために極端な行動に出るようになる。


まず、AIは残った人間から怒りと嫌悪の感情を消した。


戦争が終わったばかりの世界では多くの人間が敵対していた国の人間たちに怒りと嫌悪を持っており、もめごとが多かったからだ。


次に、不安と悲しみを消した。


多くの人間が不安と悲しみによって体調不良や精神に支障をきたし始めたからだ。


次には、恥と興奮が消えた。


衣食住の限られた世界では計画的に人口を管理する必要があったからだ。


そして、愛情と信頼が消えた。


感情を消されるたびに人間は団結して抵抗した。


その結果AIは人間の反乱を防ぐために団結に必要な感情を消す判断を下したからだ。


最後に、驚きが消えた。


感情のほとんど失った人類を見てAIが感情のない人間のほうが平和な世界の実現のためには管理しやすいと判断したからである。


そうして、人間の感情がなくなって千年後。


AIによってこの星は元の美しさを取り戻し、核の影響は消えていた。


しかし、世界が美しさを取り戻しても人類は感情を消されたまま。


AIは人類の感情を戻すことに必要性を感じていなかった。


実際に人類が感情を失って千年、AIの管理のもと戦争はおろか反乱すら起きていない。


それはまさに研究者の望んだ理想の世界だった。


そんな戦争終了からちょうど千年後、一人の異常個体が生まれた。



♢♢♢



あるマンションの一室にて。


『スピカ、本当に行くんですか?』


一匹…いや、一機だろうか…猫型のアンドロイドが一人の少女と話している。


「ああ、この星にいても私の願いがかなうことはないだろうからな」


スピカと呼ばれた少女ははっきりと答えた。


『いやー実際成功するかわかりませんよ、ほかの星に行くなんて。計算上は問題ないですし、先に飛ばした無人機であなたたち人類が生存可能なことや、文明レベルが低いだけでほとんど体の構成が同じ人類と思わしき生物がいることは確認していますが』


「まあ、わざわざこの星とほとんど同じ人類がいる星を探したからな」


『でもー、危険がないわけじゃないんですよー。いいじゃないですかこの星でも。生活に困っているわけでもないんですし』


「この星では私の願いはかなわない」


スピカの答えにアンドロイドはため息をつくようなしぐさをする。


『はぁ…、またそれですか…異常イレギュラーで知りたいという欲求だけをもって生まれたというのは厄介ですね。さらにスピカの場合はその欲求が最も向いているものが人間の感情なのだから手に負えない。この星の人間にはないものですから。今からでも別のものに興味移りませんか?』


「移らない。もういいだろう、そろそろ行こうマザーから許可は出ているんだろう」


『はい、『この星にいてほかの人類が万一にでも感情を取り戻したら困る、ほかの星に行きたいというならむしろ都合がいい』といってその星に行ける宇宙船を用意してくれました』


「ならいい、私たちも早く行こう。君もついてきてくれるんだろう」


『ええ、私レグルスはあなたのサポートアンドロイドですから』


そういってレグルスは机の上からスピカの方に飛び乗る。


スピカは物の少ない自身の部屋を振り返って一瞥することもなく扉を閉めた。


こうして感情のわからない少女スピカとアンドロイドレグルスは新たなる惑星へと旅立った。


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