第9話 聖女エルモア
とまあ、この世界は倫理観が壊滅的なわけだが、ニアレスト王国はどういう突然変異が起きたのか、数少ない倫理的な国政を保った聖地だった。
そのはずなんだが……
「何だコイツ……?」
タタラは思わず声に出していた。
フードを脱いで露わになった美しい水色の髪と透き通る白い肌。
キラキラと輝く黒曜石のような瞳には僅かに幼さが残っている。
控えめに言っても美少女。
そんな美少女が鼻息荒くフガフガと蒸気を吹きながら、両の拳を握ってタタラに熱い視線を送っていた。
ふじゅる……
「あ……失礼……」
不意に垂れ下がったよだれを拭って少女は言った。
「まさかいきなり推しが空から降ってくるとは思わず……少々興奮が抑えきれず……うへへぇ……」
「お……おう……」
タタラが若干引きぎみにそう言うと、背後から反乱軍の声が響いた。
「おい!! タンタラス盗賊団と言ったな!? 狙いは王家の財宝か!? それともそこにいる聖女エルモアを攫って身代金でもせびるつもりか!?」
「聖女エルモアだと!? コイツが!?」
「ポッ……恥ずかしい……それより攫っていただけるんですか……?」
紅らむ頬を両手で押さえてエルモアが言う。
「うるせえ!! 何がポだ!! この状況でどんなメンタルだよ!?」
「ああ……噂通りの辛辣さ……だがそれがいい!!」
そんなタタラとエルモアのやり取りを見て反乱軍が歯ぎしりする。
「うらや……クソ!! イチャつ……舐めやがって!!」
そう言って小隊長らしき男が剣を抜いた。
片手剣と腕に巻かれた小ぶりの盾……
典型的な魔法剣士……
男は盾の付いた手を天に掲げた。
攻撃に備えてタタラが重心を下げると、男の手から赤い光が空に放たれた。
「
タタラは少しだけ嫌そうな顔をしてから、ため息交じりにエルモアを抱き上げた。
「きゃぁあああああ……!? うそ!? 本当に攫っていただけるのですか……!? 我が人生に一片の悔い無し……昇天」
「アホか!! しっかり掴まってろ!! セロ・グラビトン……!!」
タタラはそう言って地面を蹴った。
重力から解放されたタタラとエルモアは一飛びで民家の屋根に飛び移るのだった。
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