正義に憧れ命を賭けた俺が、転生したら盗賊団の頭領ってマジか!?
深川我無
第一章 悪党の巣窟
第1話 薄情のダルトン
スーツ姿の漢達が、煙草の煙が充満する部屋で鋭い視線を一箇所に向ける。
視線の先には歴戦の漢達に比べるとずいぶん若い男が立っていた。
若いとはいえ歳は三十の頃だろうか……?
しかしその目付きはやはり鋭く、ただならぬ覚悟を秘めた鈍色の光を放っていた。
「本日付けで捜査一課に配属されました。
背筋を伸ばし敬礼すると、チラホラと拍手が上がる。
「タタラ。お前は本田さんに付け。本田さん。一から鍛えてやってくれ」
課長がそう言うと本田はスッ……と立ち上がり新入りの肩に手を置いた。
「力みすぎんじゃねえ。こんなとこで肩ひじ張ってたら、ホンチャンで身体が動かねえぞ!? 外回り付いて来い」
「はい!!」
そう言ってタタラは敬礼し本田の後に従った。
*
「本田さん。どこに向かうんですか?」
「ああ? タレコミがあってな。訳わかんねえこと叫びながら走り去った男を複数人が目撃してる」
「薬中ですか?」
「それを調べに行くんだよ。反社と繋がってたら二課との合同になる。初出勤早々だがこういうのは慣れだ! 被害者が出る前にホシあげるぞ!!」
「はい!!」
繁華街で聞き込みをすると、男の行方はすぐにわかった。
ショップ街の片隅に設けられた小さな公園の真ん中で。男は直立不動で立っている。
小さく震えるその肩は泣いているようにも見え無くはない。
「まあ見てろ。おい? そこのあんたちょっと身分証見せてもらえるか?」
本田はそう言って男の肩に手をかけた。
ぶちん……
嫌な音がした。
赤い飛沫を撒き散らしながら本田の手首から先が宙を舞う。
「本田さん……!!」
「来るな……!! すぐに応援呼べ!!」
本田は片腕で拳銃を向けた。
しかし男は焦る様子もなく首を鳴らして呟いた。
「あんたら……この世界の守護者か何かか?」
振り向き見せたその顔に、タタラの背筋が凍る。
口角を上げてせせら笑う男の目は今まで出会ったどんな犯罪者にも勝って狂気に満ちていた。
「馬鹿野郎!! 捜査一課の刑事だ!! 手を上げて地面に膝を付け!!」
「それはレガリアか何かか? それとも弩弓の類か? ククク……魔力もねえ雑魚が守護者とはな……」
片手を両目に当てて男は天を仰いだ。
「俺はツイてるうぅぅううううう……!!」
その叫び声で街を行く人々が振り返った。
片手から血を流す刑事の姿に気づき、次いで辺りに悲鳴が響き渡る。
「武器は不明!! 本田さんが負傷!! 直ちに応援を!!」
無線でそれだけ伝えるとタタラは銃を抜き本田の援護に回った。
「本田さん。俺が前に出ます。傷の手当が済んだらバックアップを……」
「若造に手柄は譲らねえ……おい!! 聞こえなかったか!? 訳のわからんこと抜かしてねえで膝を……ぐあぁぁああああ!?」
突如本田の身体が何かに押しつぶされるように地に沈んだ。
「本田さん!?」
「てめえら、口の聞き方がなってねえなあ……? 俺はあの”薄情のダルトン”だぞ……!? 頭が高ぇえんだよぉおおおお!!」
やべえやべえやべえやべえ……!!
何だコイツ!?
何言ってんだ!?
頭イッてんのか!?
困惑するタタラの耳に本田のうめき声が届いた。
地面で潰れる本田とタタラの目が合う。
「タタラ……!! 撃てぇえええ……!! うぱぎゃ……」
血飛沫は飛ばなかった。
前触れも無く、ただただ本田が赤い煎餅に変わった。
見えない何かに押しつぶされた本田の遺体を前にして、タタラの心に火がついた。
「てめぇえええええ!!」
叫び声を上げながら引き金を引く。
しかしダルトンと名乗った男は手のひらを掲げて呟いた。
「クアトロ・グラビトン」
バチン……!! バチン……!! バチン……!! バチン……!!
銃弾が軌道を大きく曲げて地に落ちる。
ニィと男が嗤い、タタラの身体も地面に叩きつけられた。
「お前も潰してやる……」
その時だった。
「動くな!!」
周囲のビルから
男は小さく舌打ちすると遥か遠くにいた少女を見つけて薄笑いを浮かべた。
「グラン・カモン」
その呟きと同時に、男の腕の中に少女が引きずり込まれるように移動する。
「マ゙マ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙……!!」
「キミちゃん……!! キミちゃぁああああん!!」
「危険です下がって……!!」
男は少女を抱きかかえその首に手刀を当てて叫んだ。
「武器を下げろ。さもないとガキを殺す」
タタラの目に少女の怯える顔が映る。
右手に握った銃はちょうど胸の下じきになっていて動かせない。
突然の予期せぬ人質を前にSATの隊長も苦い表情で合図を送る。
「武器を下げろ……警戒を怠るな……」
周囲に目をやりダルトンは銃口が下がったことを確認すると高笑いを浮かべて右手を上げた。
「ご苦労。褒美にこいつをくれてやる……!!」
タタラの脳裏に先程の本田の姿が過った。
駄目だぁあああ……!!
タタラは自分のことなど眼中にないダルトンと泣き叫ぶ少女を見て覚悟を決める。
「クアトロ……」
ドスン……
鈍い痛みがダルトンの胸を貫いた。
ダルトンは咄嗟に足元に転がるタタラに視線を移す。
そこには自分の体ごと銃で打ち抜き、血溜まりに寝そべるタタラの姿があった。
「正義は……勝つ……」
ダルトンが膝を付いたのを見届けると、タタラは意識を手放した。
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