第2話
目の前にいる女性は誰だろうと考える。
断る理由はないし深夜に女性にこんな誘いを受けることなんてもうこの先の人生でないだろう。連れたばこに誘われ休止中の札を置きお互いに無言のまま裏の喫煙所へ向かう。喫煙所といっても小さいガラス製の灰皿とコンクリートブロックを椅子に見立てたお粗末なものであった。タバコは開ける瞬間が一番良い香りがする。湿気がほとんどないからだ。金包み紙を手前だけ剥がしタバコをなぞるように取り出す。
「一本良いですか」と女性が言う。
タバコに誘うくせにタバコを持ってないのかと思うも奢って貰ったものだし一本や二本くらいくれてやろうと思えた。いただきますと唱え火をつける。
パッと見ても俺より年下、20歳くらいだろうか。格好もデニムにダボっとしたTシャツ。だとしたら本部の社員で俺の勤務態度の指導に来たとかではないのだろう。ひとまず首の皮が繋がったことに胸をほっと撫でおろした。でもなぜ呼び出したのか、そもそもこの女性はだれなのか。疑問は残っている。さて、どうやって口火を切ろうか考えてるとその女性がこちらをじっと見て深々と頭を下げた。
なにをしてるんだ・・・
予想外の行動に思考が少し混乱する。頭を下げている。なぜ、頭を下げる?頭を下げるということは多くは謝罪を意味しその起源はたしか飛鳥時代だったかな・・・いや、今はそんなことはどうでもよい。
「なにしてるんですか・・?とりあえず頭上げてください。」
ゆっくりとこちらを見上げる女性。
「緑川さん。私、あなたをストーカーしているんです・・・」
ドクンドクンといつもよりも早く鼓動が脈打つのがわかる。恋をするときのような胸がはちきれそうになる健全なものではない。全身の血液が体のどこか奥の方に引っ込んでいくような感覚とともに血液の代わりとして汗が体の表面からぶわっと溢れてくる。
だれ、なぜ、どうして、どこで、いつ、どうやって。5W1Hすべての疑問符が浮かんでくる。
火をつけたタバコは一吸いしたきり口をつけておらずにツーと煙を出して長い長い灰になっていた。
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