足りない僕たち

百乃若

第1話

 この家で迎える春は何回目だろ。26歳、男、緑川、職業フリーター。大学を卒業して就職活動に失敗してアルバイトで日銭暮らしをしている。早い奴はもう結婚や出産をしている連中もいる。時間の流れが平等なのを疑うくらいに自分に変化がない。世田谷にある家賃五万の六畳とロフトのある木造の賃貸では春ということもあり隣人が入れ替わったり街に新しく大学生になる若者、似合わないスーツで電車にすし詰めにされる新社会人。町には新しい〇〇であふれてる。そんな活気を纏った世界に一歩足を踏み入れると途端に場違い感が出て恥ずかしくなってしまう。それでも働かないといけないからバイトに行くしかない。

 

深夜のコンビニバイトは楽だ。もちろんやらなければいけないことはあるが駅前の大型コンビニにほとんどの客を吸われ客は来ないので長い長い夜の間に数えるほどの業務を黙々とこなすだけで残りの時間はバックヤードでサボれる。深夜のシフトに入れる人間が俺以外いないことからこのことは店長も黙認していてる。


今日みたいに誰も来ない日は裏の喫煙所でタバコを吸いながらどの廃棄を持ち帰るかを考える。20歳になってからなんとなく吸い始めたタバコも今じゃすっかり日常の一部になってしまった。出費がかさむからやめようと何度か試したが禁煙のストレスを他の娯楽で解消しようしむしろ金がかかることがわかってからはもう諦めて吸い続けてる。一度上げた水準は下げられないとはよく言ったもので一箱600円するピースライト以外は受け付けない口になってしまった。


二本目を吸おうとしたとき甲高いレジの呼び出し音がなる。種類やタバコ類、ホットスナックなどの販売はセルフレジではできずこうやって呼ばれることがある。愛しのピースライトをおあずけにされ少し腹を立てながら店に戻る。

 

「おまたせしました~」

ちょっと今のは気だるい感じが出過ぎているかとハッとした。

若い女性だ。

「277番を一つ」

もうだいたいのタバコと番号は一致している。これはピースライトだ。

会計を済ませ女性の見送りをしようとするとこちらを見てたばこを差し出し来た。


「よかったら一緒に吸いませんか」


鳩が豆鉄砲食らった顔、きっと今してるんだろうなあと思いながらしばらく固まってた。


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