短編エッセイ集

小川初録

夢について1 卒業と引っ越し

 この数年卒業の夢を見る。

 

 懐かしいクラスメートの顔ぶれがそろっている。大体卒業前か後でも進路の決まっていない状態の者ばかりだ。

 

 夢によっては1人も進路の決まっていないこともある。

 そこで進路未定者として卒業後も登校を続けて何とかしようとすると言う内容だ。現実ではクラスメートは昭和の時代の人たちなので全員進路は決まっていた。


 他は成績優秀者数名だけが進路が決まって他は決まっていないだとか言うもの。

 決まっていない中で俺1人自営でやるだとか息巻いていたりする。


 卒業したのだから教室へ入れなくなる。進級した後輩が使うからで、それに備えて自分の私物を家に持って帰ろうとする。

 

 その私物の多いこと。


 本や雑誌、自分の日記などのノートがものすごい数あり、一回でとても持って帰れる量ではない。

 これを持って帰るのに駐車場に停めてあるボロボロの軽自動車まで歩いて探しに行くのだが、それがなかなか見つからない。


 校舎付近の駐車場は偉い人用で生徒用は校舎からは遥かに遠い。

 自分の車ですら見つかるかどうか意識もおぼろげに、しだいに自信を失っていく。


 しかし教室から私物を出さなくてはならない。仕方がないので、これを置くだけの倉庫の一角を借りたりする。


 それで帰る家だが、親が出て来るのは稀だ。

 姉と同居している家だったり、1人で借りているアパートの部屋だったり、弟がいることもある。


 大抵は10代の頃親が借りていたボロボロの家屋の実家へ帰ろうとする。


 卒業して進路も決まっていないのだから、実家へ帰らざるをえないわけだが、実家はこんなんであやふやだ。



 こんな夢を見る前は卒業ではなく、修学旅行の夢も見ていた。


 それは初夏から初秋まで何ヶ月もある大旅行で日本の北から南は沖縄まで長い船旅を含む。


 期間が長いので俺はタンスにラックにオーディオまでリヤカー2〜3台分の荷物を持って旅をする。

 仲間は当然呆れ顔をする。


 俺はリヤカー2〜3台をヒーヒー言って引っ張って旅をする。


 特に列車や船舶の乗り降りの時や手続きの時、大量の荷物を何とかするのに苦労する。


 こんな夢は最近見ない。


 引っ越しをする夢も多い。

 大きな都市で就学や就業を終え、一事実家へ戻ると言うケースが多いが、その逆もある。


 その時も荷物が多い。


 俺の荷物があまりに多いため姉とその家族が住む実家に余白がないと交渉が難航したりする。


 卒業の夢は紙媒体のものが多いが、今度はCDやビデオテープが多い。

 中には恥ずかしいものもあるが、とても捨てられないと俺は抵抗する。



 卒業とはもう人生も終わることを示しているのだろう。


 進路が決まっていないのは受け入れてくれる地獄もないのだろうか。


 それとも昨今の氷河期と呼ばれているものを潜在的に見ているのだろうか。


 数十年前に亡くなった祖父は、亡くなる前いつも列車が出ることを確かめることを言うという。


 ○○駅からか、☓☓時からか覚えていないが、自分が世を去ることを象徴的に感じるのだろうか。


 まあ、列車が出ると言っても、田舎と言えども祖父は主要都市の人だ。1時間に何本か列車は出るだろうし、都市間の特急や急行列車は1日数便はある。


 それをある何らかの列車を意識する特別な便があると亡くなる寸前に感じるのだろうか。



 俺は懐かしい顔がそろう学校の何を今更卒業するのだろう。(歌ではないが)


 大量の書類は俺の人生を書いたものなのだろうか。


 日記と子供時代読んでいた魚釣りや音楽の雑誌、地図などがそれだ。


 これを完全に持ち出して所定の居宅に持ち込めたら安らかに逝けるだろうか。


 それが出来ない貧しさにあえぐうちは現世に残ってまた生きて行く、それにも先立つものにも不自由する生活にあえぎ続けるのだろうか。


 駐車場も遠くへと要望されるだけ蔑まれた階層にて、この世から決別も許されない苦しさの中生き続けるのだろうか。


 ジサツなど考えもしないのだが、夢の世界の地図を広げて考えるとどちらも貧しい。


 これら荷物を整理するのに使う軽自動車も過去に使った最も安い数万円のマニュアル車だ。



 あるいは、荷物が整理出来ないほど、自分の身に積み上げられたごうと言うものを背負っているのだろうか。


 その業を整理しないうちは来てはならぬと。


 まあその業のために生きているようなものだが。


 それを愉しみ過ぎて、老いてもそれを追い求める。これでは行き着く先はやはり地獄か。



 数ヶ月の旅行でリヤカー2〜3台分の荷物だ。


 趣味を持つ者としては断捨離と言われると腹の立つことだが、


 自分でもそれは行き過ぎだ。

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