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@rabbit090
第1話
一か八かだ、殴りこんでやる。
とうとう追い詰められたアタシは、そんなことを考えていた。
「ヤバかった、あの時は。」
「いやさ、アンタ誰とも会わなかったじゃん、だから、分かんないよ。」
「…あれは、会わなかったんじゃないわ、会えなかったのよ。」
「は?何それ。」
「アタシ、整形したの。」
「アンタが?どこを?」
「ここよ。」
髪の毛、全てが無くなってしまったのは、アタシのせいではない、と思いたいが、実際はそうなのかもしれない。
上司に、ひどく嫌われていた。何がそんなに嫌いなのか、と思う程、アタシは嫌われ続けていた。
が、実際は違ったらしい。その上司は、妙な好意をあたしの寄せていて、それに気付かず(全く分からなかった)、ぶっきらぼうな態度ばかり取っていたから、恨まれた。
それが、怒りとなって、アタシの頭の毛を、まっさらにしてしまった。
自分でも、こんなにストレスに弱いだなんて、思ってもみなかった。が、よく考えれば学生時代も学校が終わってから部活までしている心の余裕はなく、大人になり他の人と同じように夜まで働いてみて、バレてしまったのかもしれない。
そして、髪の毛はなんとか、薬で元に戻せた。
早くに治療したし、一過性のものだったらしい。
が、それを機に、アタシは自分の顔を、くっきりとした二重にした。
元々、二重だったけれど、二重線がくっきりと見える、パンダのような顔で、アタシは、女優のようなはっきりとしたものが欲しかった。
だから、ただ、やってみただけだった。
「まあ、いいんじゃない?元々可愛いけど、てか気付かなかったけれど、言われてみれば、そうねえ。」
「そうなの。」
だが今は、もう新しい会社に勤めている。
だから悩むことなんて、なくなってしまった。
だけど、
「君、なんでいるんだ?」
「あ…。」
アタシは、絶句した。
世界の狭さに、口をあんぐりとあけ、絶望していた。
そもそも、同じ業界を志望していたのだ、なら、そんなに離れた地域でもあるまい、サプライヤーである元の会社と、取引があったっておかしくない、が、求職者としてのアタシは、もちろんそこまで考える余裕などなかった。
「しかも。」
じろじろと顔を見られ、多分整形のことが分かったのだ。友人ならいいけど、この男にだけはバレたくない。
どうしても、嫌だった。
「ふーん、そうか。」
しかし、それだけ言って、用件を済ませ、いなくなった。
まさか、元上司が現れるなんて、思ってもみなかった。
はあ、辞めるしかないのか、そんなことを漠然と思った。
ふらふらとした足取りで、アタシは歩いている。
それは、分かっている。
が、もう耐えられそうにない。そもそも、髪の毛が全て抜け落ちたのだって、相当きていたからなのだ、なら。
「………。」
あの男は、意地が悪い。
またアタシを、ねちねちと、執拗に攻撃している。
何が、その執着を生むのかは分からない、が。
「………。」
言葉はない、だが、アタシはきっと、この先を順調に生きていくことはできないのだろう、と、遠くを見つめながら、考えた。
untitled @rabbit090
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