あの星

@me262

第1話

 昼夜を問わず白く輝くあの星が空の中央に忽然と現れてから、世の中は変わっていった。

 神経質で厳しい上司が、私のミスを怒らなくなった。柔和な笑顔を浮かべ、気にするなと言うだけで、以来彼は穏やかな性格になった。

 家族や知人も以前と比べて温和になっている。私がその事を指摘すると、明るい表情で、最近すこぶる快活なんだと皆が答えた。

 世間では犯罪が目に見えて減少し、困っている人を助ける美談は逆に多くなった。

 この現象は世界的なものらしく、宗教や人種の対立は徐々に消えていった。国家間の紛争も相次いで解決し、やがて全ての戦火が止んだ。

 世界中の人間が寛容になっている。原因は中空に輝くあの星だと、皆が直感していた。あの星が放っている白光が、人の心を純白に洗っているのだ。不可解だが、これを拒む者はいなかった。

 そして遂に大国間で核兵器の完全撤廃が決定し、世界は長年の悲願を成就した。通常兵器の削減も加速し、各国は福祉を充実させ、恵まれない国への援助も盛んになった。

 その後、全世界の国家で軍隊が解散された時、人々は喝采し、天空に益々白く輝くあの星に感謝した。


 あの星が実は星ではないと判明したのは、完全平和が実現してから十年後だった。

 私達はだまされていたのだ。あの星は人類を善良にするのが目的ではなく、闘争心を奪い、従順な性質に改造するのが真の狙いだったのだ。今や地球には軍隊も武器もなく、侵略者は無血征服ができる!

 ……だが、これは邪推かもしれない。あの星の住人たちは臆病で、ただ人類の武装を恐れていただけで、本当は平和的な交流を求めている可能性も高い。きっとそうだ。ならば私達も暖かく彼らを迎えよう。何といっても争いは御免だ。

 静かに地上へ降下してくるあの星を見上げた時、遠くから見た時には白光を放っていた星の本体が実際はウニのように鋭い棘を無数に持ち、真っ黒である事に私は気づいた。

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