第6話 みんなで準備🦍🐻🦃🐶🐗🍑
時刻【9時50分】
大阪府○○市にある自然の里という市が運営している文化センター。
緑のテントが張られた大人6名と小ゴリラ1頭なら問題ないバーベキュースペース。
真ん中には木製の長机が1台、その左右には同じく木製の長椅子2脚が設置されている。
周囲は山々に囲まれ、施設のすぐ横には小川が流れており、鳥たちの鳴き声が響く場所で。
休日ともなれば、自然を満喫したい家族連れや若者たちで溢れかえる知る人ぞ知る隠れた名所だ。
ここに、せっせとバーベキューの準備をするゴリラたち、工程管理課のメンバー+山川すももがいた。
彼らは、無事合流することができたのだ。
長机の前に立ち、そこに置かれた特A級黒毛和牛の霜降り肉(誠が抱えていた袋の中身)、ピーマン、玉ねぎ、椎茸、キャベツ、そして、自らが持ってきたエクアドル産高知栽培のバナナを手際良く捌いていくゴリラ。
バナナジュースの一件を全て吐き出せたことで、いきいきしている。
「ウホウホー!」
熊主任は、その横で阿吽の呼吸と言わんばかりに、切られた瞬間にアルミ製のトレーへと移していく。
「肉、野菜、バナナ! 肉、野菜、バナナ!」
その服装は、シックな黒で統一された物。
黒のカッターにネクタイ、そして黒のスラックスと黒のスニーカーだ。
唯一特徴があるなら、その上に着けている蜂蜜を食べる熊が描かれたエプロンだろう。
「ふぅ……もう少しですね!」
「ウホ!」
そんな工程管理課の主任である1頭と1人によって、長机の上には、切り分けられた食材たちがもの凄いスピードで並べられていく。
すると、突然、熊主任が動きを止める。
「いや、これではいけませんね……」
その表情は少し暗い。
急に動きを止めた熊主任にゴリラも動きを止め、つぶらな瞳で見つめ首を傾げている。
「ウホウホ……?」
「いえ……ふと思ったのですが、1人の分に取り分けた方がいいでしょうか?」
真面目な熊主任は、今になって食材の分け方に疑問を抱いてしまったのだ。
その言葉に、ゴリラは自然と自分の考えを述べた。
「ウホウホ?」
これは、気遣いもこだわり過ぎると、それを受ける側にとっては押し付けとなってしまう。
都会で生きてきたからこそ、さまざま人間と出会い触れ合ったからこそ、見つけ出したインテリゴリラの1つの答え。
そんな彼のおかげで、熊主任の顔は徐々に明るくなっていく。
「確かに……そうですね。そうすると強制的に食べないといけませんし……」
「ウホ!」
「……ですね。よし、このままでいきます」
「ウホ?」
「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですので、気にせずガンガン捌いて下さい!」
悩みを解決した1人と1頭は、目に闘志を宿して作業を進めていく。
「ウホー!」
「ふふっ、おー! ですね!」
その横で雉島課長が持ってきたバーベキューグリルの使い方に悪戦苦闘する犬太と、説明書片手にあーだこーだと指示を出す誠がいた。
犬太は、その仕組みをいまいち理解していないのか、温度計の部分を押してみたり、蓋を開けて何かを探している。
「えーっと、これのスイッチは……?」
その姿に少し呆れつつも誠は優しく指示出す。
「これは、ガスを繋げて着火すれば使えるやつだよ?」
真っ直ぐな犬太には、この対応が200%の好意に映ったようだ。
「あ、そうなんっすね! 勉強になります!」
まるでゴリラのような無邪気な笑み浮かべている。
そんな表裏のない犬太に調子を狂わせられてしまったのか、誠の返事にはいつものようなキレがない。
頬を赤くしたり、ぼーっとしたりしている。
「……う、うん」
「じゃあ、このガス管を……えーっと、どこに繋げば……?」
「それは、後ろの青色の管でしょ!」
「おお! 本当っすね、繋がりました!」
「この説明書を見ればわかるはずだけど――」
「えっ? なんか言いましたか?」
「い、いや! 何でもない!」
「ん? そうっすか? 何も無ければいいですけど」
「な、何もないって!」
「は、はい……? わかりました。それにしても、本当に助かりました! さすが、誠さんっすね」
「う――っ、あ、うん……」
ゴリラに諭されてから、元気100%に戻った犬太と、そのせいで口籠ってしまったり、視線を合わせれなくなったりしている誠。
何故こうなったのか……それはきっとゴリラのおかげだろうが……その本ゴリラは何も気付くこともなく、熊主任と食材を捌いていくのに夢中だ。
「ウホウホー!」
「ふふっ、さすがです! 早いですね」
「ウホ、ウホウホ!」
「ええ、この調子で行けばもう終わりますね」
熊主任の言葉を受けて、彼はその手に持つ包丁をきらめかせながら、赤子のような笑みを浮かべている。
「ウホゥ!」
「いえいえ! お互い様ですからね」
こんなふうに、メンターコンビとメンティーコンビには、それぞれの形でいい雰囲気が漂っていた。
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