第4話 犬猪コンビ🐶🐗
時刻【9時05分】
トルクネの前へと着いたゴリラは念の為「任せて下さい」と息巻いていた犬太と誠の2人がいないか周囲を確認していた。
「ウホウホ?」
だが、前には2人の姿はなかった。
どうやら、彼らは先程のグループLINEで言っていたように、地下1階のスーパーへと買い物を向かったようだ。
ゴリラはズボンのポケットからスマホを取り出し、商業施設の前に着いたことをグループLINEへと連絡を入れる。
グループLINE【バーベキューでバーっとはしゃぎたい】にて。
ゴリラ
「ウホウホ!」
すると、すぐさま既読が3となり、先にバーベキュー会場へと向かっている雉島課長、熊主任、すももからは、トリのスタンプやクマのスタンプ、桃のスタンプが送られてきた。
その度「ブブッ」と通知を知らせる振動がスマホを持つゴリラの手に伝わる。
対して、ゴリラもゴリラのスタンプで応じた。
「ウホ!」
そして、そのスタンプに既読がついたのを確認するとスマホをポケットにしまった。
ちなみに、彼がいるトルクネの前には有名ハンバーガーチェーン店があり、この付近にはその店の揚げたてポテトフライの香ばしい匂いが漂う。
その右隣にはドラッグストア、書店、定食屋が建ち並んでおり、その先には六五市という、毎月第2日曜日に開催している地元の歴史街道へと繋がっている場所だ。
市のコンセプトは、手づくり・こだわりの市。
🦍🏘🍔
――5分後。
時刻【9時10分】
トルクネ前。
ここでゴリラは待ちぼうけていた。
「ウホゥ……」
ゴリラはスマホをその手に持ち空に浮かぶ雲を眺めている。
なぜここにいるのかというと、グループLINEへ連絡を入れたというのに、先に買い物へと行っているはずの2人から連絡が来ないのだ。
それどころか既読すらついていない。
とはいえ、待ち合わせ場所はこの場所。
動いて探すにしても行き違いなんてこともあり得る。
だから、ここから動けないでいた。
ゴリラはもしかしたらと思い、両店舗に近づき店内に犬太と誠がいないか確認する。
「ウホウホ!」
しかし、2人の姿を確認できない。
それもそのはずだった。
彼らは方向性は違えど、根が真面目なコンビ。
先に買い物を終えることはあっても、ゴリラが来るまでの時間を飲食して待つなんてことは考えるまでもなく、あり得ないからだ。
ゴリラは、会社内で目の前の仕事を一生懸命にこなす犬太と、相手が求めている先を読んで先手を打っていく誠の姿を思い出し、地下1階のスーパーに入ることを決める。
「ウホウホ」
彼は建物正面にある扉ではなく、右側に設けられた地下1階の地元スーパーへ直通となっている階段を下りていく。
「ウホ、ウホ!」
すると、その先に膨らんだビニール袋両手いっぱいに持つ犬嶋犬太が立っていた。
ゴリラが考えていたように、彼らは先にスーパーへと入っていたのだ。
犬太は近付いてくるゴリラに気付くと袋をガサガサと音立てながら元気よく手を振っている。
「おーい! 主任! ここっすよー!」
その服装はアウトドアと意識してるようで、上は薄手で動きやすそうなパーカーを着ており、その色は外側は白色・内側は黒と白のチェック柄の物。
背には青色のリュックを背負い、下は伸縮性のありそうな黒色のスキニーパンツと茶色のマウンテンブーツを。
元気よく振る手には軍手をはめている。
どう考えても軍手をはめるには早い。
しかし、無邪気でなに事も一生懸命である犬太ことだ。
きっとやる気が前に出過ぎた結果だろう。
それに一見アウトドア向きに見える服装だが、汚れが付きやすく虫も寄ってくる可能性の高い白色を、このバーベキューをする日に着てくるというのも何とも犬太らしい。
ゴリラは、そんなことを頭に浮かべながら愛すべき部下の元へと歩みを進めていく。
「ウホウホ」
彼が階段を下りながら、犬太の右隣に視線を向けると、熊主任の直属の部下である猪狩誠が誇らしげな顔で立っていた。
それに犬太の持つビニール袋より小さな紙袋を1つ抱えている。
よほど、大事なのかまるで赤子を抱く母のように優しく包み込むような持ち方だ。
だが、その持ち物よりも。
犬太がただの荷物持ちと化していることよりも。
彼女のお世辞にも、周囲に溶け込めていない服装を目の当たりしたことでゴリラはその動きを止めていた。
「ウホ!?」
ゴリラは誠を二度見する。
人の……人間の服装について寛容な彼でも、その有り余る個性に度肝を抜かれてしまったのだ。
「ゴリラ主任ー! こちらですよー!」
そんなゴリラの気持ちも知る由もなく、隣にいる犬太と同様に誠は元気よく手を振っている。
その問題の服装は、もはや自衛隊のそれといっても何の違和感もないだろう。
自然に溶け込む為、虫などに刺されない為と考えられたであろう若草色の帽子に、ミリタリー柄の長袖上下。
そして、水溜まり程度なら全く問題ないであろう厚底で黒色のブーツ。
また、犬太と同じように軍手をはめている。
なんというか彼女の真面目で勤勉なところが全面に出てしまった服装だ。
良くない方向に。
それに小柄でベリーショートという髪型もそう見えてしまう要因にもなっていた。
しかし、元気よく手を振る本人は全てを気にしているわけもなく、階段の真ん中辺りで思考停止しているゴリラへと声を掛けた。
「そこでー! 待っていて下さいー!」
口に両手を当てて声を出したせいで、街中に彼女のハキハキとした声が響き渡り、向かいのファーストフード店にいる人、その隣にある薬局にいる人たちも振り向き、その視線が1頭と2人に刺さる。
いつもは注意されることの多い犬太でさえも、周囲をキョロキョロと確認し、隣で声を張り上げる誠へとコソっと声を掛けた。
「誠さん、デカいっすって声……」
「いやいや、わざわざゴリラ主任にここへ下りきてもらってから、声を掛ける方が問題でしょ?」
「ですけど、恥ずいっす――」
「何が恥ずかしいの? こっちの方がよっぽど効率的だし、ゴリラ主任の手間が省けるでしょ?」
「ええぇ……わかりますけど――」
「――けど?」
「ちょっと……やっぱ、恥ずいっす……」
「これくらいで、恥ずかしがってたらまだまだよ! ほら、主任を見てみて? 私が大きな声を掛けようとも顔色1つ変えていないじゃない」
「いや、誠さん……主任の顔色は元々――」
「――なに?」
目立つ服装に加えて、2度も自分の意見を否定されたことで、頬を膨らませている彼女に犬太はお手上げ状態となっている。
「いえ、何もないっす……」
一方、ゴリラは階段の真ん中で部下が言い掛けていたであろう言葉を呟いた。
「……ウホウホ」
犬太が口にしようとした通り、ゴリラがひとりでに言葉を発したように彼の顔色は常に黒いのだ。
もちろん、近くでやり取りをすれば、感情の上がり下がりによる表情の変化にも気付くだろう。
しかし……彼らがいるのは階段の下、ゴリラがいる場所は階段の上、そして時間の経過と共に日が昇り始めていた為、逆光となっていたのだ。
何をどうやって、顔色を変えていないと判断したのか? 言葉を投げられた本ゴリラですら困り果てていた。
「ウ、ウホゥ……」
ゴリラはその場で動かず頭を抱えて渋い顔をする。
すると、その様子が気になったのか誠が再び大きな声を響かせた。
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