第4話 創作において嘘が上手い効能の話

 綺麗過ぎる物語も、現実的過ぎる物語も、では『嘘』が下手なように思う。


 ノンフィクションは基本的に事実に則して『嘘』はない。(……のだと考えておこうと思う。

 反してフィクション(英訳:虚構、創作)はその名の通り『嘘』でできている。

 つまりフィクション小説を書くことは『嘘』をつくことに他ならない。

 けれどこの『嘘』は先手を打って「これはフィクションです」と看板を掲げた上での『嘘』であるので、受け取りての方にも許諾された『嘘』である。



 これらの『嘘』に、たまに納得できない人が現れる。

 元々『嘘』だと理解して鑑賞したというのに、それでも納得できないという人だ。


 理由は人によって様々だと思う。

 単純に、主観的な経験と合致しないとか(例「若者でこのような落ち着きを持っているのは不自然だ」)、展開のご都合主義が癪に障るだとか(例「なんでこんな立て続けに助けの手が入るんだ!」)。

 総括すれば個々人の認知が不協和を感じるという話なのだと思う。

 全くおかしい話とは、私は言わない。

 私もこう語れる時点で、そのような認知的不協和を作品から感じたことはあるからだ。

 だから私以外の全ての人がこの不協和を感じることも納得できる。


 ――――勿論、その違和感を表明するときの態度にアレやコレやある事は確かなのだが。(それはまた別の話題としたい。





 さて、物語を読んで「ん?」と首をかしげたくなる時のことだ。

 きっとその瞬間、私は目の前の作品の『嘘』に稚拙さを感じてしまっている。


 この『稚拙さ』とは、内容を語る文章力・語彙力が拙いといった、表層的技巧の話では勿論、ない。



 例えばあなたが恋人の浮気を疑っているとしよう。

 疑わしい点を挙げて問い詰めるあなたに、恋人は言葉多く弁明を語る。

 一聞して、あなたが放つ一つ一つの質問に、恋人は破綻の無い答えを返してきていると思える。

 だが段々とあなたは内心首を傾げだす。

 「ん?」と心に疑問が滲む。


 それは、一つ一つの質問と回答は整合性が取れているのに、恋人の全ての答えを照らし合わせると、綻びのある点が二、三浮かんできていることを、なんとはなしにあなたも気づき始めているからだ。


 私が『嘘が下手』と言いたいのは、こういった場合の『嘘』のことだ。




 物語には始りがあり、終わりがある。(……基本的に、と余地を残しておこうと思う。終わりがなくても必要とされる作品は確かにあるからだ。その場合は打ち止めになっているそこを一応の完結点と捉えてほしい)

 始まりから終わりまでの全体で一つだ。

 ひと会話、ひと場面、ひと章。

 そのような小さな区切りでだけ破綻しない『嘘』では、力及ばない。

 物語の全てを読んでくれた人を、本を閉じるまでの心地よい『嘘(ファンタジー)』の中で微睡ませて差し上げるには、どうしても、足りないのだ。

 全体において破綻しない『嘘(ファンタジー)』で、物語を織り上げる。

 それが、心地よい微睡み(鑑賞)から覚めないために必要だと、個人的に感じている。


 まるできっちりと洗い上げられた真っ白なシーツを皴一つない程美しくひき、マットレスをしっかりと包みこんで、心地よい寝床を設えるかのように。

 丁寧に、丁寧に。

 物語(嘘)は語られて欲しい。

 そんな期待をしている。

 とても贅沢な期待だと思いつつも。




 『上手い嘘をつかれたい』。

 潜在的に、読み手として私は期待している。

 書く時も、そのような自分の期待に、ある程度応えたいと思ってもいる。


 ――――ただし、時々憂鬱でもある。

 『上手い嘘』を吐くのは、中々骨が折れることでもあるから。(だから、『完璧な嘘』を目指す必要もないと思っている。マジシャンが観客の目を誘導し、トリック(嘘)を見逃させるように、派手な見せ場や展開を弄したり、勢いや面白さで最後まで駆け抜けてしまうような作品も沢山あるからだ。完璧で完全である事だけが、満足度に直結するなんて稚拙な話は、私は無いなと個人的に思っている。



 作品を書く上で、『上手く嘘』をなぜつくのか?という命題の解を、忘れないようにしたいと思う。

 人それぞれだと思うので、唯一的な断定は当然しないが、私個人の場合であれば、答えは決まっている。


「(感情的に悲哀の強い作品だとしても)面白い、このままずっと続いてほしい。ずっと終わってほしくない。でも、


 結末を知りたい」



 この感情を絶やさないためという事に尽きる。

 読む人の心にも、書く自分の心にも。



 ラストまで貫かれた『嘘』が作中の『真実』となるために、日々『最高の嘘つき』になりたいと思ったりもする。

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