新島さんは予知夢を見たくない

加藤 忍

ハイ テンション

特に関りや思い出のあったわけでもない3年生の卒業を祝ってから数日。教室内では浮かれた雰囲気が漂っている春休み前日。


「ずっと前から好きでした!付き合ってください!」


校内で告白スポットとして有名な大きな桜の木・・・の近くの校舎裏。日当たりは悪く、生徒の目には入りにくいこの場所で。俺は人生初めての告白をした。


相手は隣のクラスの新島にいじま幸乃ゆきの


腰近くまで伸ばされた黒く長い髪。前髪を止めている白い花柄のピン。ブラウス越しでもわかる大きなたわわ。それでいてスタイルもいい。


性格はどちらかといえばおしとやかで、彼女に告白しに行った獣たちを俺は数人知っている。卒業式の日も、3年の先輩が最後の勝負にここで公開告白をしていったが、あえなく撃沈していた。もしかしたらそれ以上にいるかもしれない。


そんな相手に、俺は無謀だと言い放った親友の言葉を無視してここで頭を下げて、手をまっすぐ彼女の方に向けている。


「あ、えっと名前聞いてもいい?」


「はっ!宮野みやの晃人あきとと申します」


「宮野くん、ね・・・えっと、私は今すぐ君から走って脱げた方がいいのかな?」


「なぜ、そう思われるのです?」


「いや、ね。反対の手に持っている物が今見えたからかな?」


「ほほ~、見えましたか?」


「うん、ばっちりと」


「・・・」


「・・・」


互いに無言になり、静かな空気が流れる。頭を下げたまま、彼女の足元に目を向け続ける。


彼女との距離は約1メートル。彼女が動いてすぐに走り出せば全然間に合う距離。少し遅れたとしても元陸上部。ブランクはあるものの、女子生徒に負けるほど遅くはない。


彼女が「はい」と言ってくれればそれで済むこと。こちらが乱暴にすることはない。


しかしわかっていた結果となった。彼女は素早く進路を変え、反対方向に走り出した。こちらもすぐに動き、3歩目で彼女の手首をつかむと力強くこちらに引き戻す。そのまま校舎の方に押しやり、校舎と俺とで彼女の逃げ場をなくした。


「いや、やめて」


「さぁ選ぶがいい。俺の女になるか、それともこの逞しく反り返った黄色いバナナを咥えるか!」







「バナナはいや~!!」


息を荒くしながらベットから起き上がった。


「・・・夢、なんだ。・・・バナナってなに?」


謎の夢を見ていた気がするが、時間とともに徐々に記憶が薄れていく。ほどなくしてバナナ以外の夢の記憶は思いさせなくなった。


荒くなった息を深呼吸して整える。着ているパジャマは少し汗ばみ、べたべたして気持ちが悪い。


カーテンの隙間からは朝日が差し込み、鳥の鳴き声が外から聞こえてくる。


「お風呂入ろ」


鳴る予定だった目覚ましをオフにし、布団から降りて風呂場を目指した。

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新島さんは予知夢を見たくない 加藤 忍 @shimokawa8810

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