第2話 寒さの只中で
江戸時代、木曽川の支流のひとつに、小さな林業を営んでいる茂吉という老人がいた。そこに奉公人として仕えていたのは巳之吉という青年で、二人は稀有な木材を探し出せる名うての木こりとして木材を江戸に卸していた。
とある日、適度に間隔があけられた、計画的に植林された林に薪を取りにいくこととなった。ただその日は吹雪がびゅうびゅうと吹いており、黄昏時、向こう岸に行くための船、小舟が向こう岸につけたままとなってしまっていた。川のそばには、渡し守が使う小屋があった。木材の屋根瓦の掘っ立て小屋であり、林業の道具置き場としても用いられていた。高さは人二人分程度。隣には見上げるほど大きな樹木が一本立っており、そこにまで届くような高さがある。古ぼけたどす黒い茶色の造り。所々に節の穴がある。人が二、三人眠れる程度の広さの部屋だ。扉に鍵はかかっておらず、中には入ると、囲炉裏はおろか何の道具すら一つして見当たらないかった。窓もない。ともかく、一次避難することとした。
二人は寒さに蓑の下で震えてながら眠っていた。いや、少なくとも巳之吉はまだ眠れずにいた。
そんなときである。
頬にあたる雪風で目が覚めると、戸が音もなく開かれており、向こうからは激しい雪が叩きつけるように部屋に入り込んでいる。その寒さなのに、薄手の白い装束(宮中の人間が婚礼の際に纏うような、美麗かつある種の妖艶さすら湛えた純白のもの)をまとった女性がいた。どうやら、老人に凍えるような白い吐息をかけているようだ。
青年は飛び起き、老人と女の間に腕をさしのべて遮る。
「何をするのですか」
冷たさに腕が凍ってしまいそうだ。
「お前は若いから見逃そう……お前は冷凍保存されたわたしの息子にそっくりだ。だが、今夜見たことを誰にも言うでないぞ。約束をお守りいただけるか? 破られてしまうと、雪女としての私の性質…人の生死を操る程度の能力が失われてしまう。さらに、そのことが大王に知られると、息子の冷凍保存が溶かされてしまうため、にっちもさっちもいかぬ事になってしまうのだ」
と女は静かに、だが暗く語った。見ていると、戸口に後ろ足で進み、すぅっと消えてしまった。
巳之吉は老人を起こそうとするが、-……死んでいる!
茂作は、冷たさのあまり凍死していた。
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