第42話 お茶会で村民の度肝を抜く

 僕たちの家ができたので、庭も適度に整地した。

 芝生を生やしておくと、遠目には白亜の豪邸。

 いや、近目でも白亜の豪邸。


 そうして、ガーデンパーティの準備に入る。


 フィナと一緒に料理の準備を始めようかな。

 小さい時から料理は一通りできるようにした。


 ちなみにランベルトは有能な人なんだけど、

 料理だけは駄目。

 砂糖と塩を間違えてフィナに叱られている。

 だから、サーバー係だ。



 まず、パン。

 小麦を製粉する。


 パン酵母を作る。

 塩と砂糖、水を用意する。

 こねて、パンが膨らんだら、窯でパンを焼く。


 窯は自製。すぐにできる。

 パンを焼くのはフィナの仕事。



 この時代の製粉は石とかが混入していたし、

 表皮も混入し放題だった。

 僕の製粉は、そうしたものを取り除き、

 かつ非常にきめ細かい。


 この時代にはまだパン酵母は使われていない。

 ビール酵母を利用することはあっても、

 それは経験則で使っていただけ。


 小麦よりも雑穀や豆、木の実などを混ぜたパンも

 食卓を賑わせている。

 それはそれで美味しいんだけど、

 かなり素朴な味だ。


 僕たちのパンはキメが細かくフワフワだ。

 日本のパンに比べるとフワフワとは言い難いけど、

 この世界にこれ以上のパンはないと断言できる。

 王家のパンでもフワフワではない。



 水牛の乳から生クリームとバターを作る。

 単純に密閉容器に水牛乳を入れて振るだけ。


 魔法で力仕事をするから簡単。

 生クリームはホイップしておく。


 野ラズベリーと野ブルーベリーを採取する。

 山に入れば採り放題だ。

 卵は、首都からもってきたもの。


 ブルーベリーケーキやラズベリーケーキを作る。

 ベリー類はジュースも作る。



 翌日、お茶会にたくさんの人が集まった。


「きゃっ、いきなりこんな豪邸ができてる」


「ここって、壊れかけの家だったよね?」


「豪邸すぎて現実感がないわー」


 僕は挨拶をする。


「皆さん、こんにちは。新しく領主になったロレンツォです。今日集まってもらったのは、僕の計画をお話したいからです」


 ざわめく村民たち。


「「「新しい領主様?若いし格好良すぎるわね」」」


「「「後ろに控える執事の人?あの人も渋い」」」


 騒ぎが収まるのを待って、僕の家を見てもらう。


「この家、僕が昨日10分くらいで作りました」


 僕はそばの空き地で土魔法を披露する。

 どよめく村民。そりゃ驚くよね。



 村民を家の中に招待する。

 ガラスにぶつかりそうになる人、

 エアコンに驚き、ドライヤーに驚き、

 排水処理に驚く人々。


「僕は魔法使いです。ゆくゆくは皆さんにもこの品質の家を提供するつもりです」


「「「「「わー!!!」」」」」


「えっと、お代は……」


「お代は頂きません」


「「「「「わー!!!」」」」」


 うむ。気持ちがいいね。

 ただ、みんな半信半疑の顔をしている。



「では、次に参りましょう」


 村民を倉庫に連れて行く。


「ご覧ください」


 山と積まれた小麦。そして隣の倉庫には肥料。


「僕はまず穀物増産を目指します。そのために、肥料をもってきました。それと、当面は食べるものが不足するかもしれません。そのために、小麦ももってきました。最後に、今年度は税は不要です」


「おおお!」


 これはさっきよりも大きな驚きの声が広がる。


「この小麦と肥料の山……ああ、ありがたや……」


 ひれ伏して賛辞を述べる人もいた。

 下手すると、冬を越せない人もいるからね。

 僕は何度かこの村にきてチェックは済ませてあるんだ。



「耕作する畑には僕も開発に加わります」


 僕は倉庫の裏にある山林を

 あっという間に畑にしてみせた。


「おおお!」


 村人にとって魔法とはチャッカマン程度の存在だ。

 このようなまさしく魔法と呼べるものを見たことがない。


 そもそも、山林を畑にするというのは年月がかかる。

 大きな木だと根っこを掘り起こすのに1か月がかり、

 なんてのはザラだ。


 地表は固く、ゴロゴロと大きな石もあり、

 さらに地表を慣らしても貧相な地質であれば肥料や

 改良土がいる。


「わかりますね、もし水が不足するようでしたら、付近の川から水運を引き込みます」


「害虫や病気対策もまかせてください」


 村人も僕の言うことに麻痺し始めている。

 目をむいたまま、僕の演説に聞き入っていた。



「では、みなさん、こちらにどうぞ」


 少し固い話ばかりで村人も驚嘆してばかりだから、

 リラックスタイムだ。


 庭に設置した大きなテーブルに、

 パンとジュースそれぞれ数種類を置いた。

 マジックバッグに入っているから、

 焼き立て、しぼりたてである。


「皆さん、お好きなものをどうぞ」


「なに、このパン。白くてフワフワ」


「皆さんが村で作った小麦でこのパンが作れます」


「嘘でしょ。黒くて固くて石が入ってたり。それが普通じゃないですか?」


 僕は実演してみた。

 村長宅からもらってきた小麦を製粉してみる。


「小麦粉の質がわかりますか。同じ小麦粉でも製粉の仕方でこれだけ質がよくなります」


 みんなは納得したというか、驚いていた。


「今は僕が魔法で製粉しましたが、もう少ししたら製粉用の機械を作ります。誰でも、同じ小麦粉が手に入ります」


 他にもノウハウがあるが、それはゆくゆく教えていくと伝えた。



「次はスィーツです」


 僕はみんなにクッキーとベリーケーキを配る。


「こんなおいしいお菓子は初めて」


「皆さん、これも村にあるものから作れます。村の小麦、水牛乳、果物、岩塩です」


「ホントに?すぐにでも作り方を教えて下さい!」


 作り方はゆくゆくみんなに教えるつもりだ。

 今日は村の可能性を知ってもらうにとどめた。



「今日は、とりあえずパンとスィーツを見てもらいました。穀物の増産の目処がたったら、今後は少しずつ村の特産を増やしていきます。お金になる特産品です」


 皆の目が違ってきた。


 僕の手作りスィーツ、素人の手作りクッキングだ。

 それでも、この世界ではとびきりの品質になる。


 何しろ、材料の質に大きな違いがある。

 1ホールで金貨数枚の価値があるのだ。

 それが村の産物で作ることができる。



 ちなみに、

   鉄貨  1p

   銅貨 10p

   銀貨 1千p

   金貨 十万p

   1p=1円



 パーティ解散後、僕は村長さんと相談に入った。


 領内の殆どは森か山岳地帯だ。

 ザップ村の周囲の土地だけ開けている。

 場所はトーハウ川の左岸。

 20km四方ほどの平野になっている。


 その平野部だけど雨が少ないせいか荒れ地が多い。

 岩がむき出しのところも目立つ。

 村のある周辺だけがようやく開墾された程度だ。


 村の主要産業は小麦と狩猟。

 生活にギリギリの量しか確保できていない。

 村の人口は300人ほどだが、

 少し日照りが続くだけで領民は飢え、

 領民が流出するという。



 僕は村長さんと今後の領地について話し合った。


「村長さん、僕はこの村を衣食住で王国一番の水準に引き上げようと思っています」


「王国一番ですか?」


「半信半疑だと思いますが、僕が提供したパンやスィーツ或いは僕の住居が証拠です」


 ■食料の収穫を安定させる

 ■高水準なパンを無料にする

 ■高水準な住居を無料にする

 ■高水準な衣類を無料か安価にする


 この4つは基本として押さえるとして、その上で、


 ①村の特産品の開発

 ②領民教育

 ③自警団設置

 ④城郭・運河の設置


 これらを達成するとともに、


 ⑤移民の獲得


 村の人口を増やしていきたい。

 当面、人口1000人が目標となる。

 ゆくゆくは1万人を目指したい。



「領主様、夢みたいな内容ですね」


「村長さん、この家とかパンとか見たでしょ。僕が畑を広げるところとか」


「いや、それこそが夢みたいでして……」


 もっと夢みたいなことが続くからね。



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