第37話 聖女マリア視点

 私は聖女マリア。

 普通の平民生まれ。


 両親は健在、弟一人、妹一人の

 幸せな家庭だったと思う。


 でも、小さいときに賛美歌を歌っていたら、

 癒やしの効果があるとわかり、大騒ぎに。

 それからは人生変わったわ。


 聖女認定され、城へ拉致された。

 それ以来、家族とは会っていない。


 しかも、私普通に回復魔法が使えた。

 それもかなり高度なの。

 欠損箇所が治っちゃうのよね。ニョキニョキって。


 回復魔法使いが少ない上に、

 そんな高度な魔法を使えるのは、

 王国でも他にはいないらしい。


 それからは午前中に賛美歌歌って、

 時々回復魔法使って。

 それが毎日。城と教会の往復。護衛(監視)付き。

 誘拐防止のためだと。逃亡防止なんじゃないの?


 しかも、城に囚われている間に、

 本当に牢獄のような生活をしている間に、

 鑑定魔法が発現。


 なんでよ。鑑定魔法なんて、

 それこそ世界で何人っていう超レア魔法。

 しかも、もの凄く有益。


 私は当然、ひた隠しにしてるわ。

 ちゃんと学習効果はあったのだ。



 でも、こっそり人のステータス見るのは面白い。

 ある日、期待して王家の三男を鑑定してみた。

 だって、王家の面々って馬鹿ばっかり。

 この子も馬鹿なんだろうな。笑ってやるから。


 ……驚いた。

 この子、天才だった。


 ステータスが無茶高いし、

 いくつ魔法が発現しているのだろう。


 当時の年齢は、まだ8歳ぐらいだった。

 掃き溜めに鶴? 

 掃き溜めっていうより、吐き溜めよね。



 王家って品性下劣。ものすごく下劣。

 みんな私をいやらしい目で見てくる。


 一番下は10歳ぐらいなんだけど、これもそう。

 王様もそう。特に酷いのは次男。

 ニタニタしてるうえに、

 香水かけまくって悪臭になってる。


 それで、嫉妬に狂ったお妃連中が私に毒を盛るの。

 年に何回も。


 私、鑑定あるから対処できるし、

 あっ、そうか鑑定魔法発動したのは、

 毒もられて死にかけたときだ。


 タダでは起きないのは私のいいところ。


 それに治癒魔法ってか、

 解毒魔法もかなり上達した。

 これも内緒にしてるし、

 上達してもちっとも嬉しくない。


 で、三男王子なんだけど、

 彼だけはクールっていうか、

 王家の男の中では品性卑しくないのよね。

 好感度ちょっと高め。

 でもどうせ王族だし。

 あの王様の子供だしって思ってた。


 だから、余計にびっくりした。



 でも、誰も彼の素質を知らない。

 幼いときに天才と騒がれたことはあるらしい。

 今は普通の子っていう評価。

 よくあるよね、昔神童今は唯の人。


 なんでなの?

 私はピンときた。

 私と同じで隠秘魔法で

 自分のステータスを誤魔化している。

 私の鑑定魔法の前には小手先の技なんて甘いわ。


 ひょっとしたら、宮廷追放を狙っているかも。

 魔法が発現しなかったら、王位継承権喪失、

 宮廷追放だもんね。

 王族ならば、領地もらえるはず。

 食べるのには困らない。スローライフってやつね。


 もしそうなら、私も仲間に入れてもらおう。

 変身魔法を持っているのはバレバレよ。

 可愛い猫ちゃんに変身させてもらって、

 城から脱出しよう!



 私ね、窮屈な所きらい。

 もう城にとらわれてから何年?

 両親の顔も忘れがちな今日このごろ。

 というか、思い出せない。


 それに、私を囲おうとする輩がけっこういる。

 もの凄く気持ち悪い。燃やし尽くしたい。


 ニキビヅラの次男王子とかそう。

 もの凄く気持ち悪い。

 香水かけまくりで臭いし。

 考えるだけで寒気ボロ出る。


 だから、絶対、脱出する。

 脱出したら? どうにかなるわよ。

 

 三男王子様に集る気満々?

 違うわよ。

 正当な労働を提供するのだ。

 そして、正当な対価を得る。

 合理的でしょ?



 でも、なんですって。

 セリア王女様もいっしょに?

 あの王女様、絶対おかしい。

 人当たりが良すぎる。

 ありえない。

 きっと、私と同じで中身真っ黒なのよ。


 あっしまった。

 私は中身真っ黒じゃない。

 他人に対する“正当な”評価を隠しているだけ。


 でもね、鑑定かけたら、

 王女様もけっこうなチート物件だった。

 こういう人が聖女を名乗るべき。


 腐っても王族よね。

 ちゃんと二人もチートが生まれるなんて。

 それ以外の王族はクズだけど。



 ところで、ロレンツォに言いたいことがある。

 王女様が“らぐどーる”っていう猫ちゃんなのは

 いいわよ。

 似合ってるし。


 私もああいう長毛種にして。


「きみ、手入れできないからダメ。長毛種は大変だよ」


「あほか、私は高級魔法使いよ。そんなものポポポイノポイよ」


 解せん。

 バーマンっていう長毛種にしてもらったら、

 汚れが取れない、毛がからむ、毛が撒き散る、

 洗うと乾かすの大変。


 清浄魔法を使ったら、余計に毛がからむし、

 肌は痒くなるし。


「ロレンツォ、ギブ」


「あらまあ、マリアさん。私が清浄魔法を教えて差し上げるわ。コントロールが肝なのよ」


 ああ、王女様優しい方だった。

 ごめんなさいね、

 中身が黒いだなんて少しでも思ってしまって。

 私と同じで思いやりのある方だったわ。


「痛い!なにすんねん」


「なんか変な勘違いしてるような気がして」


 ◇


 ようやく、城から脱出できる日が来た。

 ロレンツォが城を追い出されるのだ。

 私もそれに乗じて猫ちゃんとなって城を出ていく。


 今となっては猫となる必要はない。

 ロレンツォも私もスキルが向上して、

 脱出する技はたくさんある。

 だって、今までだって散々城を飛び出して、

 そう、文字通り飛行魔法で空を飛んで

 この大陸を飛び回っていたから。


 でも、猫になって脱出するのは、

 初めてロレンツォに相談したときからの約束だ。


 それに、猫になると気分がいい。

 ものすごくまったりする。


「猫ってさ、結構神経質に周囲を見渡してるんだけど」


 そんなことあるわけがない。

 いつも寝てばかりいるくせに。

 あれは私の理想なのだ。



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