DEATH V FIVE

カレラ🧀

第1話 プロローグ

【1】


 チャンネル登録者数2,400,000人!

 S N Sフォロワー1,640,000人!

 今、ネットを騒がせる有名Vtuberとはオレ──


 の、妹のことだ。


「オイ、昨日の配信観たか?」

竹刀手しないでボコだろ? 観た観たw」

「ヤバいよなw 実況めちゃくちゃ弱腰なのに、プレイはガチで無双してるんだもんなw」


 教室の片隅からはそんな声が聞こえてくる。

 対してオレはというと──


 チャンネル登録者数24人。

  S N Sフォロワー160人。

 ネットの片隅に棲む底辺Vtuberとはオレのことだった!


 いや、兄妹で始めてこの知名度差ってマジィ?

 何なら、始めたのオレの方が先だしな。


 けど、オレにだって『役割』はある。

 そのことを思えば、底辺Vかなんて関係無い。


「おはよう!」

 オタク仲間に声をかけ、いつも通り教室へ入った。


 鼻を突く汗と制汗剤のニオイ。

 楽しく談笑する何組ものグループ。

 そんな、どこか気だるげな喧騒。

 でもそれは全て吹き飛ぶ、オタク仲間のとある言葉を聞けば。


 窓際の席に着くオレ。すると同時に、

「よっす! お前も観たろ? 竹刀手ボコ」

 親友(女友達)が訊いてくる。


 まるでオモチャを咥えてきたワンコだ。長い髪を揺らし、遊ぶのが待ちきれないって感じの雰囲気。

 朝練の汗も乾かないまま、屈託のない笑顔を浮かべている。

 もはや、毎日のルーチンだ。


「ん? まあ、観た(?)けど」

「いや〜、ヤバかったよな! ボコちゃんのプレイング! 圧倒的ピンチだったのに、余裕で逆転するんだぜ? しかも、すげ〜マシンガントークでさ! どんだけマルチタスクなんだよって!」


「ホントお前は竹刀手ボコ好きだよな」

 カバンから教科書を出しながら、オレは親友を見上げた。


 キラキラとした瞳をこちらに向け、語りたくてたまらないって顔だ。

 電気街やコラボカフェでよく見かける、オタク顔。

 ま、オレはコイツの『こういうオタクらしさ』が好きだけど。


「分かってないな?」

 親友は腕を組み、穏やかにため息を吐く。


「私は竹刀手ボコが好きっていうか、竹刀手ボコのゲームプレイが好きで。見た目とか言動とか、そういう表面的な部分を好んでるオタクとは少し違くてェ──」

 前言撤回。

 オレはコイツの『こういうオタクらしさ』が苦手だ。


「いや、でも照れるな。そういう褒めを聞くと」

「照れる? 何が?」

 真顔で首を傾げる親友。

 って、ヤベ。

 つい口を滑らせた!


 そう。

 オレは、有名Vの兄ってだけじゃない。

 喋りは妹。ゲームプレイはオレ。

 つまり、


 二人三脚のVtuberだからだ!


 だが、そのことは誰も知らない。

 妹が有名Vだってことも、オレがそのゲームプレイを担当してることも──

 何もかも秘密だ。

 すると、オレに構わず女友達は語り続ける。


「とにかく、竹刀手ボコの神プレイが──」

 神プレイは全部オレ。


「プレイングから滲み出る人柄が──」

 人柄も全部オレ。


「逆境から繰り出される技巧が、いつだって私を盛り上げてェ」

 それもオレ。


「ま、こんなこと語っても分からないか、お前にはw」

 オレを小馬鹿にしたように笑う親友。

 だが、コイツが褒め称えてるほとんどの要素は、全てオレに準ずるものだ。


 いや〜、照れるぜ!

 全部バラしたらどうなるんだ? コイツ。

 たまにそんなこと思うけど、バラす訳にはいかないよな。


 偶像──Vtuberってのは、少しミステリアスな方が良い。

 まあ、これはオレの持論だが。


 その時、始業のチャイムが鳴り響いた。

「もうこんな時間か。残りの話は、次の休み時間に語るから」

 ひらひらと手を振り、親友は自分の席へ帰って行った。


 オイオイ、アイツまだ語るつもりなのかよ。

 ま、オタクってそんなもんか。

 アイツの言葉に救われてるからな、オレの陰ながらの努力は。

 ちょっと小馬鹿にしてくるけど、良いヤツだしな。


 何だかんだ楽しい学校生活。

 こんな日々がずっと続けばいいよな。

 そう、

 思っていたのに──


 その日の帰り、オレは拉致された。

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