第11話 リーシア
アバランチからの船は個人用の小さなものだった。
「スキャン終了しました。武装は船体下部のガトリング砲のみです!」
「よし、良いだろう……接舷体制、用意」
「接舷体制、用意!」
俺に指示に合わせてニアちゃんが操作していく。ニアちゃんはかなり要領が良いらしくてぐんぐん覚えてくれているが、ぱぱっと操作できるのはツバメが素人でも扱えるUIを構築してくれたからだ。
「接舷開始します!」
通信手席からパネルを操作。振動も音もなく個人艇が接続された。
応接室に向かう。
『ほ、本当に強化外骨格なしで応対するつもりですか!?』
「うん」
先史文明の技術を使った武装に洋服。オマケにツバメはリアルタイムでスキャンし続けるらしい。
『心拍、呼吸、声の高低……その他異常を感知したらすぐに隔壁を発動させます』
そこまでするなら問題ないだろう。
どう考えても過保護すぎる。
「大丈夫。変だと思ったらすぐ逃げるよ」
言いながら個人艇へと向かう。
現れたのは気密服に身を包んだ人間だった。
小柄なシルエットは通信したムサい男とは明らかに違うものだ。
……というかそもそも女性だ。
パシュ、と気の抜ける音とともにヘルメットを脱ぐ。
年齢は18歳前後だろうか。肩口で切り揃えた栗色の髪。ちょっと不機嫌そうにも見える顔立ち。
そして——星屑を散りばめたような大きな瞳。
現れたのは、結晶人の女の子だった。
「初めまして、フジシロ屋さん。アバランチのリーシアよ」
「どうも。フジシロ屋のフジシロです」
「さて、先史文明の品をお持ちとの事だったけど」
さっそく記録媒体を渡す。
リーシア自身の通信端末にそれを読み込ませる。
「……本物みたいね」
「よく分かるな」
「AIを使って映っているものの解析をしたり、データそのものの規格やプロテクトをみれば、かなりの精度で分かるの」
言いながら、通信端末を俺に向けた。
そこに映っているのはアバランチの代表らしきおっさんだ。
『フジシロ屋! すげぇじゃねぇか! 本当に先史文明の物を持ってるとは思わなかったぞ! 映像ってのがちぃっと面倒なところだが、売れねぇもんじゃねぇ! 金額交渉と行こうぜ!』
あーでもないこーでもないと交渉を繰り広げ、それなりに良い金額で売ることができた。
データ一つで運送屋時代の年収を超えてくるとか泣けるが、俺の懐に入るので我慢だ。
「さて、それじゃあ今度は俺が買う番だな」
『おう。何でも言ってくれ。リーシアが対応する』
おっさんはそう宣言すると通信を切った。
「……おっさんが対応してくれるんじゃないのかよ」
「
「……トウサン?」
「うん。まぁ、私の話は良いわ。欲しいものがあったら言って。在庫を確認するから」
クールなリーシアだが、俺が欲しいものは在庫とかそういう概念は存在しない。
「ナーロウ公爵家について知ってることを教えてくれ」
「……情報を買いたい、と?」
「そうだな。それが無理なら、リーシアの好きなものを買うから、その分話してほしい」
「分かった」
この星系に詳しくない俺たちにとって、現地の人が持っている情報は金を払ってでも手に入れるべきものだ。
運送屋時代も常識を知らなかったせいで酷い目に遭った。
平時なら仕事か観光でもしながらゆっくり調べるんだが、今はそうも言ってられないからな。
「なら、欲しいものがある」
「欲しいもの?」
「今は言えない。貸し一つで良い」
「……まぁ、情報がもらえるならそれでもいいか。法外な値段とか無茶ぶりとかされても断るからな」
「大丈夫。無理なことは言わない」
やけに引っかかる物言いだったが、リーシアは情報を先払いしてくれた。
「ナーロウ公爵家当主、ダッチ・ナーロウ。別名を『
リーシアは不愉快そうに顔をしかめていた。
「貴族の癖して
人形。
ニアちゃんの持ってきた自動人形に繋がりそうな二つ名だ。
「根っからの人間不信で、部下も側近もほぼすべてAI。自分のために法律まで作って人形と結婚できるようにした変態で、正妻も側室も全て人形」
いわゆる
「頼んどいてなんだが、ずいぶん詳しいな。有名なのか?」
「ある程度はね。詳しい理由は、
「注文って……」
「興味ある? 人形に生体型部品を取り付けてセッ——」
「スミマセンデシタ」
「相手は人形だし、マグロだけどね」
「スミマセンデシタァァァァ!」
滲み出るような怒りが伝わってきた。
個人の
下手すると取り付けや性能チェックに同席させられたのかもしれない。
そのくらいキレていた。
「私が知ってるのは以上よ。いくらになるかしら?」
「値千金だ。金が入ったらなんか奢る」
「楽しみにしておくわ」
リーシアはにこりともせずに去っていった。
実際に接したのはたったの数分。
だが、嵐のような時間だった。
今回の一件は
目的はニアちゃんが守っている先史文明の
貴族の権力でニアちゃんを追い詰めようとしていて、警戒すべきは特許を取れるほどの宇宙船に関する知見と武力。そして財力を使ったゴリ押しってところだろう。
「これでピースは出そろった、か……?」
どうにも違和感が残る。
が、これ以上は時間がどれくらいかかるか分からない。ツバメのハッキングもうまくいってないようだし。
いや、ハッキングそのものはうまくいってるのだが、俺たちには不要なデータばかりなのだ。
『金庫の中の財宝を取り出すのは可能です。が、ゴミが入った金庫がたくさん並べられている中から、財宝入り金庫を探すのは難しく……申し訳ありません』
手あたり次第に開けてはいるものの、芳しい成果は得られていない。
これ以上ツバメのリソースを食うのも、宇宙で待機し続けるのも上手い手だとは思えなかった。
「こっちから攻めて出るか」
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