第7話 覚醒
『何なんだよあの
『当たらねぇ! 一発400万ポトルの追尾ミサイルだぞ!?』
『クソ! 味方の船を盾にしてズラかるぞッ!』
『ダメだ! 味方の破片が邪魔だ! シールドのエネルギーが
傍受した通信から怒号が響く。
当然ながら逃げようとするヤツから撃つわけだ。
「8艦目、です!」
「おお、良いねぇ。俺も10艦目だ!」
今回は守るべき船が他にあるわけじゃないので特別な弾頭は使わない。
俺たちが撃った船は爆発して破片をまき散らし、敵の動きや狙撃を邪魔していた。
それに、改修用のロボを射出して破片の一部を回収することもできる。
『良いですねー。リチウムとイリジウムがもう少し欲しいところですが、取り放題なのが素晴らしいです』
あっという間に殲滅完了だ。
「この辺って治安悪いのか? 宇宙海賊の頻度が高い気がするけど」
「そんなはずはないんですけど……」
古代文明の碑文には「1匹見たら30匹はいると思え」って謎の言葉が書いてあったが、もしかして宇宙海賊のことか。
「まぁいいや。報酬が多い分には困らねぇからな」
最寄りの宇宙港で金を貰って、食料品を買い込むか。
と、思っていたんだが。
『申し訳ありませんが、直接お越しいただかないと換金できかねますなァ』
「はぁ? 何でだ」
宇宙港入出管理局の賞金稼ぎ部門に通信を繋いだが、モニターに映るデブはねっとりと笑いながら拒否してきやがった。
『あなたが宇宙海賊の一味とも限りませんからなァ。海賊を倒したと欺瞞情報を流した上で賞金を騙し取られたら溜まりません』
デブはドーナッツを齧りながらジョッキみたいなコップでジュースを飲んでいる。
仮にも客と通話中にこれはあり得ないだろう。
『とりあえず寄港して直接手続きにきてくださァい。後ろ暗いことがないならば、ですが』
「なるほど、なるほど。俺を宇宙海賊じゃないかと疑ってるわけか」
『あ。最初の宇宙海賊から保護した子、ニアちゃんでしたっけ? その子もこちらで引き取りますのでお連れください』
モニターに
ツバメからのメッセージが表示された。
『初回手続きに着港が必要というルールはどこにも見当たりませんでした。また、この職員の通信端末をハックしたところ、宇宙海賊との交信した痕跡がありました』
なるほど。
つまるところ、こいつは宇宙海賊に繋がっているわけか。
下手するとオトモダチの
「1匹見たら30匹たぁよく言ったもんだ」
『? 何か仰いましたかァ?』
「いいや」
『では保護した子を——』
「断る」
『……何?』
「断るって言ったんだよデブ」
俺はもう我慢しない。
相手の顔色も窺わない。
おかしいと思ったらおかしいというし、気に入らない時は思い切り顔をしかめてやる。
「我が社の初仕事として保護した子供を保護者と落ち合う場所へ運ぶ依頼を受けた。アンタらに渡すつもりはない」
『本人の安否が確認できないのであれば誘拐と何ら変わりませんねぇ』
「ニアちゃん」
「あ、はい! こんにちわ! ニアです! 確かに私がフジシロ屋さんに護衛と輸送を依頼をしました!」
『……見えないところで銃器を突き付けられて脅されている可能性がありますねェ。薬物で錯乱したり、騙されている可能性も否定できません』
「捜索願すら出ていない子に対してずいぶん粘着質じゃないか」
『どうしてもというならば私が直々に乗り込んで調査をしましょう』
「残念ながらデブに吸わせる空気はない」
『不審な船舶として手配しても良いんですよォ? 星系はおろか、銀河内全域の宇宙港が使えなくなりますがねェ』
「やってみろよ」
通信を切る。
「ニア。俺は宇宙海賊と繋がっているような人間に君を渡すことはできない。申し訳ないが少し付き合ってくれ」
「はい……っ!」
「不安だろうがスワローテイル号とツバメが君の安全を——って、あれ?」
何で目をキラキラさせてるの?
「誰が相手だろうが絶対に引かないお姿……かっこいいです!」
『案ずることはありません。マスターが御命令くだされば、何でも致します』
頼もしい。
いや、むしろ情けないな。
今の俺はツバメにおんぶに抱っこだ。
……せめて訓練だけでも真剣に受けよう。
自分の意思を。自分の意地を通せるように。
「でもまぁ、今は頼む。……不甲斐ない
『いいえ!
「あのデブとの会話ログと、デブが宇宙海賊と繋がっていた証拠をバラ撒いてくれ」
『どこを狙いましょう』
「手あたり次第全て。デブの放った追手が来るまで、告発文を添えて無差別に送り続けろ」
絶対に外せないのは職場関係と親族関係だ。
どこまでズブズブなのかハッキリさせてもらおうじゃないか。
俺の指示に従って出鱈目にハッキングと証拠の散布を行うツバメ。俺とニアは手持無沙汰なのでモニターを眺めたり、計器を観察したりする。
『せっかくなので敵がここに来るまで、射撃練習でもしますか?』
地面がせりあがり、ヘッドギアとモデルガンが現れる。
「あっ、私もやりたいです!」
「良いね。折角だからバチバチにやってくれ。――少しでも強くならねぇとな」
『よろしいのですか?』
それは、ニアちゃんにもやらせていいのか、という意味だと思った。
「もちろんだ」
『かしこまりました』
たった一言、いつも通りのテンションの質問だったのだ。
強くなりたいという俺のリクエストに応え、ツバメが暴走の許可を取ろうとしてるなんて思わなかったんだ。
古代文明の技術を
ナノマシンが注入される。俺の体感時間が引き延ばされた。
ヘッドギアからナノ単位の太さしかない針が伸びる。
脳の電気信号に割り込まれ、五感と運動機関がシミュレータ内のアバターに接続された。
その間にナノマシンの一部が俺の身体を改造していく。
骨格が作り替えられ、四肢が伸びる。
筋肉が発達していく。
極めつけに、脳内ニューロンの一部に書き込みまでが行われる。
俺の脳内には存在しなかった、スワローテイル号の操船方法や射撃に関する知識と技術、果ては肉弾戦までもが叩き込まれた。
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『おはようございます、マスター』
「……どのくらいの時間が経過した?」
『おおよそ1時間ほどですね』
「……20年くらい修業させられたと思ったんだが」
『計算上では22年214日6時間51分になります。射撃、操船、肉弾戦。あらゆる分野で肉体と知識との齟齬はなくなったものと推測できます』
「……まぁ、そりゃそうだ」
それらができないとすぐさま死ぬようなシミュレーションに体感20年も放り込まれていたのだ。
実際、最初の方は死に過ぎて日数のカウントすらできなかった。
文句の一つも言ってやりたい気持ちになり、ジト目でコンソールを睨む。
『ちなみに、あと20分ほどで敵艦隊が現れます。宇宙海賊と裏で通じていた者が送り込んだ兵隊ですね』
あー……そういやそんな話をしてたかもしれない。
ツバメの説明では、1時間もすれば記憶ははっきりするだろうとのことだが、今はシミュレーション内に長くいた後遺症で時差ボケというか、いろんな思考や感覚ガズレているらしい。
「おし。時差ボケが直るまで、そいつらで遊ぶか」
『成果確認にはもってこいだと思いますよ』
「楽しみだ」
『私もです』
歯を剥いて笑ったところで、近くに座っていたニアがヘッドギアを取り外した。
ぷるぷるしながら涙目で俺を睨むニア。
「このゲーム怖いし難しすぎですよぉ! ゾンビが多すぎて弾薬が足りませんっ!」
ツバメの計らいで、普通のシューティングゲームをやっていたらしい。
……いや、ちびっ子だしお客様だから別に良いんだけどさ。
俺との落差エグすぎないか……?
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