捨てられ社畜、古代の宇宙戦艦を手に入れたので自由気ままな傭兵に転職、無双する!

吉武 止少

第1話 こうして俺は捨てられた

「オタクは社員さんのためにいくら払えるんですかねェ?」


 民間輸送船のコックピット。

 輸送スペース確保のためにギリギリまで狭められた空間には三人の人間がいた。

 ひとりは俺。

 イルメシア運輸で月々14万2215ポトルという安月給でコキ使われている輸送員だ。

 残る二人は、俺を縛って違法品のレーザー銃を突きつけた太っちょと、メインモニターに映る俺の上司と交渉をする痩せぎすだ。


「アンタは荷物と社員を守れてハッピー。俺たちはが手に入ってハッピー。皆で幸せになりましょうや」

『……社員と話をさせてもらえるかね?』

「へいへい。どーぞどーぞ」


 銃口を突き付けられたままモニター前まで移動させられる。

 年に1、2回しか顔を合わせない上司は俺の顔を見て大きな溜息を吐いた。


『あー……ツヤ・フジシロだったね』

「タツヤです」


 こいつ、俺の名前も覚えてないのかよ。安月給でコキ使うはいくらでもいるってか。

 そもそも輸送船につける護衛をケチってる時点でお察しだが。


『フジシロくん。君、家族はいるかね?』

「い、いえ。両親とは死別してますし独身です」

。申し訳ないが、死んでくれたまえ』

「……は?」

『宇宙海賊に身代金を払うのも、顧客に補償金を払うのも大差ない。だから、世間体が良い方を選びたい』

「まっ、待ってください!」

がいればその補償も必要かと思ったが、いないなら安くつくからな』

「まだ死んでません!」

『宇宙海賊に襲われ死亡。抵抗され警備船に撃沈され、遺体回収は不可能だった、ということにしておこう』

「ふざけんなっ!」

『我が社の品位ひんいを損なうような暴言は処分対象だぞ』

「処分もクソもあるかっ! 金のために俺を見捨てるってのかよ! ヒトデナシ!」

『……暴言で解雇。その輸送船は君が強奪したことにしよう』


 一方的に通信が切られる。

 もともとクソみたいな会社だと思っていたが、まさかここまでだとは思わなかった。


「……まぁ元気出せよにーちゃん」

「いっそのこと殺してくれ……次はもっといい環境に生まれたい……」


 宇宙海賊にまで哀れまれるが、ショック過ぎて怒る気力すら湧かなかった。

 両親が死んでから4年。

 移民の子として種族がはっきりしなかった俺が就けた仕事はブラックホール付近を通る危険な輸送職。薄給と長時間労働に耐えながら必死に働いて、ようやく成人したかと思えばこれだ。


 ……俺、何のために働いていたんだろう。


 めまぐるしく変わる現実についていけず、他人事みたいにぼんやり考えていると、宇宙海賊が荷物を運び始めた。どうやら護衛が到着する前に逃げ出すつもりらしい。

 価値が高いものをざざっと運ぶと、最後に縛られたままの俺を持ち上げる。


「ま、待ってくれよ。俺をここに残してくれればまだ——」

「さっき、いっそのこと殺せって言ってよな?」

「残念ながら、可哀想すぎてにーちゃんを殺すなんて俺たちには出来ねぇ」


 そう告げた宇宙海賊は、いやらしい笑みを浮かべた。


「脱出ポッドで、ブラックホールに射出してやろうぜ」

「おっ、良いなソレ!」

「はぁ!? 待て! 超重力で圧縮されて死――」

「ほら、噂があるだろ? ブラックホールはホワイトホールと繋がってるってよ」

「もしかしたら……ぷくくっ、良い世界に繋がってるかもしれないぞ?」

「そんなの迷信だー!」


 笑いながら言われても、欠片も思ってないのは丸わかりだ。

 何とか抵抗したが殴られた挙句、結局押し込まれてしまった。


「じゃあな。元気でやれよ」

「クククッ……来世か異次元か知らないがな」

「違ぇねぇ!」


 大笑いした宇宙海賊たちがパネルを操作して、脱出ポッドを射出。ご丁寧に、脱出者おれが操作するための内側のパネルは破壊されていた。


 こうして俺は、はした金のために会社に捨てられ、宇宙海賊たちの悪趣味な思い付きに巻き込まれ、ブラックホールへと射出された。

 ブラックホールの作り出した強烈な重力に捕まれば、あとは中心に引きずり込まれ、脱出ポッドが圧壊して死ぬのを待つだけ。


 あー……遠くに見えるアレがブラックホールなんかな。

 光すら脱出できない超重力の塊は視認することもできない。ただ、他のとこは星の光とかがあるのに、俺が見てるところだけは真っ暗闇なのだ。

 おそらくはあそこだろう。


 棺桶サイズの脱出ポッドがガクンと動く。

 おそらく重力に捕まったな。


 はぁ……どうせ死ぬならもっと好き勝手やれば良かった。

 いっぱい我慢した。いろんな人間の顔色や機嫌を窺って、媚びへつらった。


 ……全部無駄だった。


 そう考えたところで再び脱出ポッドが揺れた。壊れたタッチパネルが勝手に動く。


「が、外部から!? 誰が!?」

『生命反応および意思疎通が可能なだけの知性を確認しました。貴機体は22秒後にシュバルツシルト面に到達し、1分43秒後に圧壊すると予想されますが、どういった意図でしょうか?』


 やや冷たい感じの合成音声に訊ねられるが、意図なんてあるわけがない。


「分かってるなら助けてくれよ!」

『かしこまりました』

「宇宙海賊に無理やり詰め込ま——えっ?」


 虚空からバチバチと紫電が走り、見たこともない形の宇宙船が姿を現した。

 カラーリングは白を基調としており、新品みたいな綺麗さだった。

 サイズは小型で、全長は150メルトルほど。乗組員は10名以下だろう。

 中央操縦室は尖端が尖り、後方は三つに分かれたやじり型。左右には長槍のようになっていた。操縦室で左右を接続した双胴船、というのが分かりやすいか。

 実際には左右の槍は砲塔を始めとした戦闘系の機構が詰め込まれており、人が入る隙間なんてないだろうが。


 輸送船は効率を考え、基本的に箱型をしている。それ以外の形をしているということは——


「武装……戦闘船バトルシップ……?」

『戦闘も可能ですが、その呼称は不適当です。当機は高速機動戦艦”スワローテイル” と申します』

「何でも良いから助けてくれ!」

『かしこまりました』


 操縦室から並行に伸びた左右の槍部分が脱出ポッドを挟み込む。何らかの力場が発生しているのか、脱出ポッドがひときわ大きく揺れた。


『貴機体の収容と、シュバルツシルト面からの脱出。どちらを優先しますか?』

「収容に決まってるだろ!? 早く助けてくれよ!」

『かしこまりました』


 操縦室下部のハッチが開き、脱出ポッドがゆっくりと吸い込まれていく。その間にもブラックホールはどんどん近づいてきており、船首が滑るようにブラックホールへと向き始めてしまう。


「早く脱出しないと!」

『収容を優先しましたので、シュバルツシルト面から逃れることは不可能です』

「……ちなみに、さっきから言ってるシュバルツシルト面って何なんだ?」

『光ですら脱出不可能になる領域ですね』

「はぁっ!? じゃあどうするんだよ!?」

『ブラックホールを


 合成音の宣言と同時、ハッチが閉じられた。


『ようこそ、スワローテイルへ』

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