第10話 親不幸

 買って来た朝ご飯を食べ終わって、家でテレビを見ながら時間を潰して、昼ご飯を食べに外に出た。


「やっぱり同じ値段ならステーキよりハンバーグ食べた方が美味しいよねー」


 「はい!ハンバーグ美味しかったです」


 「ねっ」


 「でも本当に良いんですか?」


 「何が?」


 「私の分までお金払ってもらっちゃって」


 「ああ!いいのいいの!今の僕はお金持ちだからさ!」


 歩いて戻る途中、あの家電量販店が目に入ってくる。


 「日夏ちゃんはゲームとかする?」


 「してましたよ」


 「ゲームでも買って帰ろうよ」


 「えっ!?そんな気軽に買える値段じゃないですよ」


 「いいよ。3日間暇になるしさ。僕もちょっと前に買う決心がついたんだよ」


 エスカレーターで緩やかに上がる途中、壁に貼ってあるポスターに日夏ちゃんは釘付けになっている。


 「好きなゲーム?新作発売って書いてあるけど」


 「はい!これ私がずっと好きでやってたソフトです!昨日新作が出たっぽいですね」


 日夏ちゃんの言葉に違和感を覚える。好きなゲームなのに、新作が出る日を知らないものなのか?


 「じゃあ、そのソフトも買っちゃおう!」


 「いいんですか!?」


 「うん!」

 

 ポスターを見ると、かなりリアルでゴツい男のキャラクターが2人。格闘ゲームにハマる女の子もいることを知って驚いた。


 「これも!これも買っちゃおう!」


 「え、ええ!?もう6万くらい行っちゃってませんか?カゴの中」


 「余裕で楽勝」


 次々とソフトを手に取ってカゴに入れる僕を見て、日夏ちゃんは金額の心配をする。でも大丈夫。今の僕に心配なんて必要ない。気になるソフトをあらかたカゴに入れ終わり、立ち上がってレジに向かう。

 その途中であるソフトが目に入ってくる。涼太君の家で1日中遊んだものだった。それをそっと手に取りカゴの中に入れる。


 「強っ!」


 「まあ、私不登校だったから、家でずっとこれだけやってたんですよ。オンラインでも結構順位良いとこまで行ってたんですよ!」


 家に戻ってさっそくテレビと接続して、家主が不在のなかゲームをする。遊んでいるソフトは、日夏ちゃんが好きな格闘ゲームだ。


 「学校嫌いだったの?」


 「中学の時にいじめられて、それから学校行ってないんですよ」


 「...そっかぁ。それは、大変だったね」


 重い話をしていても、日夏ちゃんのコントローラー捌きは鈍らない。


 「まあ、慣れればどうってことは」


 「殺せばよかったのに」


 冗談のつもりで軽く呟く。


 「え?」


 「自分が死ぬ覚悟出来てるなら、そいつら殺してこればよかったのにって。そっちの方がお得でしょ?どうせ死ぬんだから」


 「あー、殺してやりたいって思った事は、何回かありますけど無理ですよ。アイツらが死んだら悲しむ人がいるのが気に食わないから。あーゆー奴らに限って、友達たくさんいるんですよ」


 「悲しむ奴も、みんなまとめて殺せばいいんだよ。って、うわっ!また負けた」


 キャラクターを変えて、もう一度対戦を開始する。しっくり来るキャラクターを探る。


 「私、気になってることがあるんですけど」


 「何?」


 「航大さんって、名前たくさん持ってるんですか?」


 「いや、航大って名前しかないけど」


 「じゃあ、優菜さんに千明って呼ばれてるのは何でですか?」


 「あー、それは何かネットを通じて会った人に本名って教えたくなかったから。それで咄嗟に出て来た名前が千明だっただけだよ」


 「私は良いんですか?本名知ってても」


 「...日夏ちゃんはね、どうせ死ぬからいいやって思ってたからさ。お互いね。あっ!」


 僕のキャラクターの体力が0になり、試合が終わる。


 横にいる日夏ちゃんは、ほっぺを膨らませていた。


 「私の名前は勝手に優菜さんに言っちゃったのに」


 「いや、ごめんごめん。あれはドブ林檎って名前が、何か可哀想だったからさ。いくら日夏ちゃんが好き好んで付けた名前だったとしても、ドブって言われるのはねぇ」


 キャラクター選択を悩んでいると、横でそれを見ていた日夏ちゃんが言う。


 「そのキャラ強いですよ」


 「コイツ?日夏ちゃんは使わないの?」


 「私は弱いキャラを輝かせるのが好きなんで」


 「ガチ勢じゃ〜ん」


 日夏ちゃんに勧められたキャラクターを選択する。部屋はコントローラーを操作する音で充満する。


 「もう20時ですよ。そろそろやめません?」


 「う〜ん。1回も勝てないとかある?」


 「でも、今日始めた割にはすごく上手になりましたよ」


 「敗北しかないから成長の実感がないんだけどなぁ。まあいっか!ご飯食べに行く?」


 「はい!」


 親には今日、家に帰ると伝えてある。夜ご飯を食べてくる、と連絡を入れてスマホの電源を落とす。返信から目を逸らすように、リュックの底にスマホを詰め込む。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る