監督のつもりが選手登録された

dede

第1話



「先生、顧問お願いします」



「……えーと?」

職員室で書類を片づけてると生徒にお願いしますと頭を下げられた。

「私ね、バスケ未経験」

「大丈夫です」

「インドア派でひょろひょろなの」

「見れば分かります。いいんです、籍さえ入れて頂ければ。この書類のココに判子押してください。後は私が役所に提出しておきますから」

「提出するのは役所じゃなくて生徒会室だから。それで何で私?」

「他に顧問になれる先生がいなかったんです。お願いします」

熱心に山瀬さんは私を口説きに掛かってくる。

「んー」

「皆川先生、受けてくださいよ?なぜそんなに嫌がるんですか?」

背後の席に座っていた学年主任の先生が、見かねて声を掛けてきた。

「いや、面倒だなと。責任とかもありますし?」

「生徒の前です、もっとオブラートに……。

かといって、そんな理由で生徒の部活動を諦めさせるんですか?」

主任が責めるような目線を送ってくる。

私は思わず目を逸らす。逸らした先で今度は山瀬さんが期待の込もった熱視線を送っていた。

その二つの視線に私は諦めの溜息を吐く。まあ、私も本当に嫌がってた訳ではないのだ。面倒とは思っているが。

「わかりました。いいよ。でも、本当に名前だけだからね?」

「やったー!」

無事バスケ部員になれた山瀬さんの歓喜のジャンプは職員室の天井に手がつきそうだった。

こうして私、皆川りの は高校教師3年目にして部活の顧問の座に納まったのだった。



いくら名前だけの幽霊顧問とはいえ、引き受けてしまったのでまったく放置ともいかんでしょう。

ということで、部活動しているところにお邪魔しようと体育館にやってきました。

「女子バスケの時間、終わったよ?」

「マジかー」

体育館で女子の姿が見えないので狼狽えていたところ、男バスの子が教えてくれた。

「……みのりん、何しに来たの?」

「あだ名で呼ぶな、先生と呼べ。顧問になったから様子見にきたんだよ」

「え、そうなの?あー、ならさっき終わったばかりだからまだ更衣室だと思う。あ、ほら」

彼の指差した方を見ると、制服姿の山瀬さん達が玄関に向かっていた。

「ホントだ、おーい」

私がぴょんぴょんジャンプしながら手を大きく振ると、彼女たちも気が付いて手を振り返しコチラにやってきた。

「みのりんに森田、どうしたの?」

「あだ名で呼ぶな、先生と呼べ。いやさ、顧問なのにまったく部員の事知らないのもあんまりかなって。顔見せに」

「気にしなくてよかったのに。でも、ありがとう」

「部員はこれで全員?」

私は山瀬さんの後ろの彼女たちに目を向ける。全員顔見知りだった。

「うん」

「キャプテンは山瀬さん?」

「うん、部長もキャプテンも一応私」

居心地悪そうに不本意そうに答える。

「え、その二つ違うの?」

「厳密には。でも部員5人しかいないから分ける意味もないしね」

「面倒見いいよな、山瀬は」

「……ほっとけ、森田」

と、森田君の言葉にハニカミながら照れ臭そうに山瀬さんは答えた。おやおやおやー?

「なんか困ってる事、ない?あんまり大した事できんけど」

「体育館使える時間増やして」

「大した事だな。私じゃなくて生徒会に談判しような」

「ちぇ、やっぱそっちかー。それ以外だと……あ」

「なに?」

「再来週の土曜予定空いてる?確か車持ってたよね?」

「空けれるけど。デートかな?ドライブデートのお誘いかな?よし、先生張り切って素敵なデートスポットをこれからリサー……」

「だいたい外れてるし目的地は決まってるから。他校で練習試合するんだけど、ボールとか荷物運んでもらえるとすっごい助かる」

「あ、そういうこと。うん、いいよ。というか、だったら……私の車に全員乗ってく?6人乗りだから行けるよ?」

「え、すごい助かる!」

他の部員たちも嬉しそうに頷いている。

「しかし……『あいのり』男子抜き、みたいだね」

「え、うん?……うん?あいのり?何それ?」

戸惑っている部員たちを見て、私は狼狽えた。

「え、あいのりが通じない!?これがジェネレーションギャップ!?いや、私だって番組観てたの小学生だったけどさ!?」


ぽんっ。


肩に手が置かれたので顔を横に向けると、とても優しい表情をした森田がこう言った。

「どんまい、みのりん?」

やめろ、優しい言葉を掛けるな!一気に年老いた気になるわ!

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