chapter7:beyond saving

 意識が戻った2人が着替えが終わり、準備ができた私たちはエアロックに集合した。私たち捜索隊は船長様を待っていた。



「随分と遅いねセンチョー。」



 ケント様が不安な顔をしてそんなことを言うものだから周りも少し疑い始めていた。船長に何かあったのではないかと。



「まぁあのセンチョーのことだから心配いらないだろ。またどうせトイレにこもってるって!」



 ツトム様はそのようにみんなに言って元気をつけさせる。



「どうなんだいOWLDO?」



 実はこのユメノトビラ内でいつでもメインコンピューターの『OWLDO』と会話ができるようになっている。何か不足の事態だったり、道に迷ったときなどに聞いて解決策を提案してもらっているとのこと。



『現在船長はトイレにまたこもっております。

捜索隊は私に構わず捜索を開始してくれと仰っております。』


「なんだやっぱりかよ。肝心な時はいつもトイレだよなー。」


「まぁそれで私たちの任務には影響はしない。予定通りにすればいいだけだ。」



 結局船長様は捜索に加わらずお留守番になった。そしてついに船をマリスの地表に着陸をさせていく。ミーティングの時と正反対のように抜けた一面を持っているようだ。



 エアロックを開くとマリスの空気が宇宙服を着ていても伝わる。凍えるような冷たさだ。



「寒いな、この寒さだと先遣隊は凍え死んでるんじゃないのか?」


 カスミ様はそのように最悪の事態を予想していく。


「カスミさんやめてください。ミスズさんのお父さんも先遣隊として向かってるんです!


それにマリスには開拓施設や宿泊の施設も何棟か建っています。備蓄もしっかりとある以上、まだ死んではいないかと。」



「まぁそれは行けばわかるさ。さぁ行こうぜ!」



 ツトム様は意気揚々とエアロックから出て地表に降り立っていった。続いてマコト様、カスミ様が降り立ちアラタ様と私も一緒に降り立つときにミスズ様に呼び止められ、あるものを渡された。



「もし、お父さんを見つけたらこれを渡してほしいの。お父さんのために作ったお守りを。」



「わかりました。お会いしたらお渡ししておきます。」



 私はお守りを受け取りポケットの中にしまって地表へ降り立った。ついに私たちは『マリス』の上に上陸したのだ。



       ーーーーーー


 マリスの地表は砂でできていて植物は一つも存在しない荒野だった。水もなく、太陽も差し込まない永遠の夜のような星だ。こんな場所をよく開拓しようと思うような正に何もない星。



「しっかし相変わらずこの星はひどいもんだなー」



「ツトムくんはこの星に来たことがあるのかい?」



「一度だけ、修学旅行である星にいく途中に燃料補給の合間に立ち寄ったんだ。たった10分くらいだったけど、もう2度と行きたくないって思うほどクソつまんねぇ星だったよ。」



 やはりこの星はそんなにひどいのか。会社側が何を考えてこの星を開拓の候補に選んだのかわからない。



「でもあとから聞いた話じゃ、実はこのマリスにはある秘密が眠ってるらしいんだ。」



「ある秘密?」



「さっきケントが話していたあの『ヒストリッカー』がこのマリスで誕生したって話だよ。修学旅行の時に聞いた噂じゃ、そいつらは何者かが人為的に作ったって話だぜ。」



「それじゃあ、その怪物は何かの目的のために作られたの?」



「あぁ、けど嘘かほんとかわかんねぇけどな。」



 いわゆる都市伝説と呼ばれる類の話だろう。昔から人間はそういった話が好きだとデータにはある。



「ふん、そんな話が本当なら今このマリスはやつらの巣になってるはずだろう。第一、その化け物は最近ケントくんたち学者が最近発見した新種のはずだ。


そんなことより今は行方不明になった人たちの捜索が優先だ。」



 マコト様は今の話をかき消すように話を戻していった。



「相変わらず頭の固い軍人さまだこと。」



「傭兵であるお前もほんとは鼻で笑ってるんだろう?」



「あいにく、私は都市伝説とかオカルトは好きなんでね。今の話は心をたぎらせるよ。」




「さっすがカスミさん!見た目によらずノリがいいぜ!」



「おい、一言余計だぞ。」


 みなさんはそれぞれ話に盛り上がったりしている中、アラタ様は匂いにやられていた。このマリスは人間の嗅覚では表せないような匂いをしている。それはまるで腐敗した何かがそこら中に転がっているかのように。



「う、この匂い...」


「まったく、アラタは部屋にこもりっきりだからだよ。」



「いや、僕だってこんなはずじゃ...ヤバい、また!?うっ...」



 アラタ様はまた吐き出してしまっている。このような匂いは慣れるようなものではないがこういう時はこれを渡すのがいい。



「アラタ様、こちらを」



 渡したのはラムネ。少しは吐き気をなくせるだろう。



「あ、ありがとうホープ...」



 ラムネを食べさせて安静にさせる。



「とりあえず休んだらあの建物の中に入るぞ。早く治せ。」


「すみませんマコトさん、すぐに回復させます。」



 そうして少しの間休憩を取ることになる。その間にマリスの建物の内部を調べていた。

データの中にそういった情報があるのは助かる。



      ーーーーーー


 休憩を終えて建物の内部へ入る。だいぶ荒れている。まるで何か巨大な生物が中を荒らしたかのように壁や床が壊されて配線が剥き出しになっていたりする。



「どうしてこんなに荒れているんだ?」



「わからない。けどここで何かあったのは確かだ。」



「急いで監視室へ向かうぞ。」




 監視室なら、ディスプレイに24時間内部の記録が保管されている。その記録なら、何があったかを調べることができる。



 ロビーからしばらく歩いて行くと十字路となり、天井にぶら下げているディスプレイに表示されている通りに左に向かうとそこに監視室を発見する。監視室にたどり着いた私たちはアラタ様が記録を開くのを待つ。



 そうして開いた記録の中では特に違和感になる映像はない。



「おかしいな、特に違和感になるようなものが見当たらない。」



「じゃあなんで今中はこんなにひどい有様なんだよ!」



「わかりませんよそんなの。」



 私の目には暗闇を暗視していくスキャン昨機能が備わっているためわかったが皆様はおそらくわからない。隅にいたあの存在を。伝えようと思ったが映像の中でそれは銃撃により倒されたため、おそらくはいないと考える。


 そうして監視室を出て更に下へと降りていく。だんだんヌメヌメとジメジメとする空間に辿り着く。どうやら広場みたいだがまるで人がいない。食べ物が入っている箱の中身はぐちゃぐちゃになっている。



 さらにそこから奥へ行くと...。


 臭い。刺激臭、腐敗臭、様々な匂いが混ざって独特だ。



「うわ、なんだこの匂い。」



「アラタ、頼むから吐くなよな。」



「とりあえず今はこのマスクをつけたから大丈夫です。」



 私は壁を触ってみると、粘液のようにヌメヌメとした感触がした。そして何か物体がそこら中に落ちている。それを持ち上げるとそれは臓物を落としていく。



「う、うわぁぁー!!?」



「落ち着け、もう死んでいる。それにしてもこいつはなんだ。」




「こ、これは...。」


そうして語られたのは衝撃の存在だった。




「死体です...。人間の死体です...」




 なんとそれは人間の死体だった。もう人の形をしている状態ではなかったから気がつかなかった。




「どうして、こんな酷いことを...。」



「開拓者の中に気が狂ったやつがいたんだろう。特に食糧問題で空腹を満たそうと。」



「ちょ、やめてくださいよ!さすがにそんなのは想像したくないですよ!」



 それはもう人間の禁忌だ。とはいえ、なぜこのようなことに。すると奥から微かに声が聞こえた。



「うっ...あ...」



「おい、あそこに人が吊るされてるぞ!?」



 私たちは急いでその人の元に走っていった。服はボロボロで体中が壁についていた粘液がついている。



「おい、大丈夫か!」



 ツトム様が壁から剥がそうとする。



「た、助けて...くれ...」



「大丈夫だ、我々はお前たちを救助しに来たんだ!」



「早..く...。殺し...てく...」



 その後突然その男性は痙攣し始めていく。この世のものとは思えないと顔と声で伝えようとしている。



「お、あがっ、おっおごごご!


う、うぐぁぁー!!!」




 突然その男は体を抱え悶え苦しみ始めた。




「おい!大丈夫か!しっかりしろ!!」




「お、あががががが....」




 白目をむく。ビクンビクンと体を裏しながら白目がどんどん赤く、口や鼻から血が出てくる。


 体から血が噴き出し、そして...




 その人間の体が内側から破裂していった。

辺り一面に血が飛び散った。抱えていたツトム様の体中に付着していく。返り血を浴びたツトム様は叫びながらすぐさま払っていく。男性の体はまさに人と呼べないような破片になり、そしてある物体が落ちて来た。




「グッ...。グギャー!!」





 どうやら生まれたようだ。ケント様が発見した新種『ヒストリッカー』が...。



 その産声は金属を爪などの鋭利なもので引っ掻くような不快音にも聞こえるし女性の叫び声のように聞こえる。口は6つに裂けていてその姿はまさに悪魔だった。アラタ様たちは咄嗟に耳を塞いだ。



「な、なんだこいつはぁー!!!」



 マコト様はその赤ん坊に向けて銃をぶっ放した。そしてカスミ様はとどめと言わんばかりにそいつをバラバラにしていく。アラタ様は恐怖のあまり腰を抜かしていた。股辺りが濡れている。



「おい、これってもしかして...」



「間違いない、これが『ヒストリッカー』だ。」



「な、おい!なんでそんなことがわかるんだ!?」



「だってこの生物、さっきケントが話していた生態にピッタリ当てはまるじゃねぇか!?

寄生された人間は破裂して、口が6つに裂けてて...。」



 ツトム様もさすがの状況に顔を真っ青にして一気に元気が無くなっていく。



 破裂した破片の近くにあるものが落ちてあった。ネームプレートだ、そこの名前には。


 「ヒロシアラヤ」




 アラヤって苗字、確かミスズ様と一緒だとすぐに気づいた。ネームプレートはお守りと一緒のポケットに入れた。




「とにかく捜索は一旦中止だ!一度船に帰還して対策を練る..ぞ...。」



 マコト様の声がだんだんと小さくなったことに違和感があった。そしてカスミに聞いていく。



「おい、先遣隊は確か何人ここに来ているんだったか?」



「確か50人って言ってたよな...。あ、あぁ...!?」



 カスミ様もその光景を見て絶句した。アラタ様、ツトム様もブルブルと震えながら怯えている。そう。






 すでに何匹かに囲まれていた。私たちは運悪く巣に突っ込んでいたのだった。
















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