第19話 二人で推理。二人で脅迫
「なんで二人組だったか?」
レインはシャインの問いかけを繰り返すと黙り込んだ。
太陽はすっかり地平線に寄り添い、黄昏時となった。
シャインは、思いっきり背伸びをした。そして、直感的に思っていたことを告げる。
「きっと、私たちと同じなんですよ」
彼女の背後で、夕日が煌めく。
それを聞いて、レインの細い目が開いた。
「そうか。あの映像に映っていた二人はプロということか。だとしたら、狙いは何だ。ビルを崩壊させた目的は……?」
「アドミラル建設さんは、あいたたな事態なんですよね?」
シャインが確認のコメントを付け加えた。
「この事件で、アドミラル建設は品質問題だと騒がれて、株価が急落した。狙って株の空売りを仕掛けた可能性が高いな。目的は金か……」
「理恵ちゃん、私たちに建物の護衛も頼みたいって言ってたのも、ちょっと気になるんですよ。なんかヘンテコな依頼ですよね」
それを聞いて、レインは理解したようにうなずいた。
「ああ、そうか。建物を人質に取られているんだ、アドミラル建設は」
「ん? どういうことですか?」
「今回のこのビルが崩壊したことで、あの二人組は証明できたわけだ。アドミラル建設に対してビルを壊せますよと、アピールしたんだ。せっかく建てた建物が壊されたら大損ですよねと、おそらく伝えているのだろう。壊さない代わりに、金を要求している。……建物に対しての身代金。そんな筋書きではないだろうか」
レインはそう言うと、瓦礫の山を見つめた。
「だから、理恵ちゃんは、建物を護衛しろっておかしな依頼の理由を答えてくれなかったのですね」
「ああ、おそらく最初から建物を人質にした脅迫はされていたに違いない。でも、アドミラル建設は半信半疑だった。ビルを壊すなんてのはミサイルでも撃ち込まないと無理だ。でも、だから、あの二人組は見せしめに、このビルを崩壊させた。株価も急落すると予想して、空売りを仕掛けてもいたと思う。抜かり無い計画性を感じるな」
「ってことは、今後もアドミラル建設は狙われるってことですよね。建物を守りながら、犯人確保ですか? うわー、むずかしそうです」
シャインは状況を把握して、露骨に嫌そうな顔をする。
「それだけではないぜ、シャイン。俺たちと同じなら、溶かせる能力は男の方の能力だ。防犯カメラの映像に映っていた女の方も、異能者の可能性が高い。そして、能力の片鱗すら見せていない。ビルを壊すのに異能を使った可能性もあるが、情報がない」
「確かにそうですね。ここのビルに忍び込んだ時は、彼女の方は見張り役だったんでしょうか」
シャインの言葉に、レインもうなずいた。
「おそらく能力を発現する機会がなかったと思う。……やっかいだな。とはいえ、陽も落ちてきたし、ここでできることはもうない。異能者による犯罪と思われる証拠は確保できたから、大町さんに報告するぞ」
二人は車に戻って、事務所への帰路についた。
*
女神ヶ丘市
その一角にあるバーは、まだ店が開いていなかった。準備中の札がかけられたままだ。店内のカウンター席には、アメジストがいる。いつもどおりのセクシーなスーツ姿だ。バーテンダーが出したカクテルを楽しんでいる。
ガチャ。店の入り口のドアが開いた。
準備中の札を気にせず、男が入ってきた。シミターだ。
ここは『ノーブル・ギャンブル』が運営する酒場のひとつだった。
「よ、早いな」
「まだ、一杯目よ」
「俺にも何かくれ」
シミターはバーテンダーに声をかけた。うなずく姿を確認すると、アメジストの隣のカウンター席についた。
「進展はあったか?
「それがまだ返事がないのよね。大企業って、優柔不断だわ」
「ははッ。まぁ、何か一つ決めるのにも、いろいろな人の承認が必要なんだろうよ」
シミターは、出されたカクテルを一気に飲み干した。ゆっくり味わう気はない様だった。
「建物を建てるよりも、はるかに少ない金額なのによ。いやになっちゃう」
アメジストは頬杖をついて、色気のあるため息をついた。
「もう一棟潰すか? さすがに二度も起これば、気前よく払ってくれるかもしれないぜ」
シミターは手のひらを見せながらニヤリとしながら言った。
「そうかもしれないけれど、アドミラル建設の株価、落ちちゃったじゃない。これ以上落ちるのを見越して、空売りしても大して儲からないわ」
「じゃ、予告状でも出すか。ちょっと何かゲームっぽくしてみてさ」
おそらく適当に言ったであろうシミターの発言を受け取って、アメジストは言った。
「……面白いわね。日時を指定して、二つの建物のどちらかを落とすと提督さんに予告するなんてどう?」
アメジストは妖艶な笑みを浮かべた。
「んで、確率50%ってことで片方だけ崩壊させるってわけか。でもよ、日時と場所を指定してしまったら、あちらさんも何か対策するんじゃ」
「こっそり忍び込んで、あなたの異能で建物を崩壊させるのって……正直、私がつまらないのよね。見張りはもう勘弁」
「つまり、異能で遊びたいってことか。ははッ、良いんじゃね?」
「でも、ボスにご承認いただいてからよ」
「どっかの大企業よりも、あっさり承認は取れそうだけどな」
シミターが述べた所感に、アメジストは声を出して笑った。
「しっかりと脅して、ついでにちょっと遊びましょう」
「ああ。俺たち『ノーブル・ギャンブル』は、そうでなくてはな」
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