花の魔法使い

幽宮影人

始まり

序章

 魔法使いは人にはできない奇跡を扱う。

 神にも等しく映るその力は、時に人を恐怖に陥れ、時に強大な希望となり、時には越えがたい神秘に誰もが頭を垂れた。


 人と魔法使いの歴史は長きにわたる。

 何百何千年と積み重ねられた歴史は、決して明るい話だけではない。

 話すのも悍ましい恐怖と忌避される歴史も確かに存在する。

 しかし、それもまた歴史の一部で、歩んで来た道のりだ。


 今となっては魔法使いでもたどり着くことの難しい果ての島。

 その周囲の海域では吹き荒れる豪雨と高波が唸り、空気を割くように常時雷鳴が轟いているという。

 陸地から切り離されているその小さな島だが、昔は陸伝いになっていたそうで、ある事件を機に切り離されたそうだ。

 その事件こそ、歴史上最大の汚点であり、同時に忘れてはいけない教訓。



 人も魔法使いも寄らない果ての島。

 かつてその地では人魔入り混じる大戦争が起きたそうな。

 それはある勇敢な魔法使いによって治まった。

 誰も彼もいなくなったその地は、まるで犠牲者を追悼するかのように花々が咲き乱れているそうだ。

 魔法使いや人たちはこの地をこう呼んで羨む。


 『神々の楽園』と。

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