第4話 エリス

「いやー、私も頑張ったんだよ?だけどねぇ、上層部はみんな君のことを処分したくてしたくて仕方が無いんだ。今すぐ殺せっていう意見が大多数だったのをあれこれ調整してなんとか半年の猶予を取り付けたんだよ?」


エリスとかいう金髪の美少女が突然部屋に入ってきてとんでもない爆弾発言するもんだから俺心臓止まりそうだよ。


褒めてほしぃなぁーなどと呑気に笑ってるもんだからこの子ちょっとシバきたくなってきた。


「あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・すぅ〜」


「チクチクほっぺつつくのやめて」


優しいので俺はこれくらいで許す。というかほっぺめちゃくちゃやわらかかった。今更だけどこんな美少女に自分から触れに行くとか俺正気か?訴えられないか心配になってきた


「ごめんなさい」

「いいよ、私が本気で嫌がってるなら君の指はとっくに切り落とされてるから」


怖い。怖すぎるなにこの子。やっぱりこの世界って中世くらいの倫理観しか無いの?その腰に佩いてる剣を抜くことに全く躊躇がなさそう。

中学生くらいの見た目なのに中身バーサーカーなの?


「そんなに怖がんないでよ、冗談じゃん」


冗談だったらしい。安心した。


「でも女の子に急に触るのは常識がないと思うよ」


すっごいまともなこと言われた。バーサーカーとか思ってごめんなさい。俺の方がおかしかったです。


「まぁ雑談はこれくらいにして本題に入ろうか」


急にエリスが真面目な顔になった。すっごい可愛いけど今は置いておく。なんか重要そうな話だから。


「はっきり言って君は死ぬ」


なんだ死刑宣告か。身構えて損したぁ。



…は?




「怠惰の迷宮ってね、他の大罪迷宮とは一線を画しているんだよ。モンスターの強さが段違い、トラップわんさか、そこらかしこに穴が空いてて足を滑らせると奈落に真っ逆さま。」

「怖い」

「おまけに現在攻略されてるのは49層まで。50層は誰も攻略できてないんだよ。」

「無理じゃん」

「無理だね」

「終わった」

「終わったねぇ」


ニコニコしていてムカついたのでやっぱりほっぺたをつついておいた。


「それで、ただ死刑宣告しにきたわけじゃないんだろ?」

「うん、まぁね」

「俺は、どうすればいい。」


真剣な表情で尋ねる。


「私が君を鍛える」


……


「え?君が?」

「うん、私が。」


なぁに言ってるんだこの子は。

こんなか弱そうな子が俺を鍛えるだぁ?


「私、怠惰の迷宮を49階層まで攻略した剣聖だから。君を鍛えるには最適だと思うよ」

「……ふぅーん」

「信じて無いね」

「そりゃぁ、いきなりこんなちっちゃい子が自分のこと剣聖って言っても信じられんわ」

「そうだなぁ…じゃぁちょっと外出てみようか」


そんなわけで俺たちは今、訓練場に来ていた。


なんか鉄でできた人型が5体並んでる。硬そう。木刀での打ち込みとかで使うのかな?


「じゃぁ見ててね」


エリスが木刀を構えて、振り抜いた。


スパン


音は一つしか聞こえなかった。木刀は見えなかった。構えと、残心だけが目に映っている。


その瞬間、5体の鉄の人型はバターみたいにずり落ちた。斜め、前後、太い胸部を横に一文字、十字、そして頭から股下まで唐竹割り。


「ね?」

「疑ってすみませんでした」


これからは生意気な口きくのやめよう。殺される。

俺はエリス様の寛大な御心に感謝し、これまでの非礼を心の中で詫びた。



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城に戻り。


「まぁ、というわけで、私が君を鍛えます。」

「よろしくお願いします」

是非もない。

「私は剣聖だけど、武術なら大体なんでもできるから大船に乗ったつもりでいてね」

「おぉ」


急にエリスが心強く思えてきた。


「でも、そんな私が教えても50階層到達は無理です」

「上げてから落とすタイプ?」

「だって私49階層までしか到達できなかったんだもん。可能性があるとすれば、君の成長率の高さだね。ユニークスキルが無いと言っても、腐っても君は勇者だ。並の兵士の数倍は成長速度が速い。それと、迷宮から産出された強力な武器も貸し出す。それで、やっと1パーセント希望が見える。」

「………」


自分がどれだけの無理難題を課されたのか、やっと理解が追いついてきた。

こんなのは実質…


「実質、これは君の死刑宣告だよ、ハルキ」


「半年の猶予を与えられたと言っても、それでも王族達は早く新しい勇者を召喚したがってる。ユニークスキルを発現させるであろう勇者をね。」



「どうする?諦めて死んだっていい。安らかに、眠るように死ねる薬ならいくらでもある。それも一つの選択肢だよ?醜く抗って、迷宮でモンスターに食い荒らされて殺されるくらいならそのほうが幸せかもしれないね?」


彼女はそう前置きした後、




「それでも、生きたいなら」



「王達を見返したいのなら」



「それなら、この手を取って」



そう言って、金髪の剣聖はその手を差し出してきた。


「…死にたく無い」

「うん」

「生きたい」

「うん」

「急に呼び出されて、勝手に期待されて、勝手に失望されて、それですぐに殺処分なんてあんまりだ」

「うん」


「…抗う。全員見返してやる。だから」


俺は彼女の手を強く握り返した。


「俺を、強くしてくれ、エリス。」


そう言った俺に、彼女は満面の笑みを浮かべて、


「任せて」


そう、力強く言ってくれた。




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「それにしても、ほっぺをつついたり、君は王女に大して随分無礼を働いたねぇ」

「は?王女?誰が?」

「私」

「急に冗談言うじゃん」

「本当だよ?耳が長いのがその証」

「マジ?」

「マジ」


この俺がエリスにした土下座は日本でもなかなかお目にかかれない美しさだったと思う。


あと年下だと思ってたら一個年上の18歳だった。

どう見ても中学生がいいとこなんだけどエルフだからという説明で納得した。

ってことは俺本当に失礼なやつだったじゃん。よくあんなに朗らかに許してくれたな。


エリスさん、マジ聖女。

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