巨大ロボットの免許更新手続き

ちびまるフォイ

世界の命運はスムーズな免許更新にかかっている

『大変です! ついに怪獣が首都へ進行してきました!』


切羽詰まるニュースを見て司令部は決断した。


「あれを使うしか無いか」

「ああ。許可する」


「全員、第一種戦闘配備!

 ゲシュヴィンディッヒ=カイツベシュガレンクングを出せ!」


最終防衛本部に警報が鳴る。

ついにあの巨大ロボットが起動する瞬間に誰もが緊張する。


パイロットはスーツを着てコックピットに入る。

メカニックは最終調整を終える。


そのときだった。


「あ! 免許更新してない!!」


パイロットのひとことで現場は凍りついた。

司令部は頭を抱えた。


「免許更新してないとロボを動かせないではないか!?」


「最近、車を買って、それで頭いっぱいで……」


「ばかもの!」


副長は司令に助けを求める。


「司令、どうしますか」


「受けさせろ」


「でももうそこまで怪獣が来てますよ!?」


「ゴールド免許なら試験は早い」


「ぐッ……仕方ない! すぐに免許更新をしてくるんだ!」


「了解! でも」


パイロットは巨大ロボ……は使えないので、

自前の車で巨大ロボット教習所へと急ぐ。


「免許更新に来ました!」


「司令から話は来ています。さぁこちらへ!!」


「急いでください!」


「わかりました! ではまずこの書類を記載してください!」


「いや、怪獣来てるんですよ!?」


「わかってます! でも書類書いてもらわないとこっちも処理できないんですよ!」


「ああもう! なんでここだけアナログなんだ!」


「では次に映像を見てもらいます!」


「2倍速でできないんですか!?」

「動画サイトじゃないんです! ムリです!!」


「くそっ! こうしている間にも街は破壊されているのに!!」


パイロットは巨大ロボットで起きる事故についての講習映像をしっかり見続けた。

その集中力はもはや怪獣と相対するときよりも研ぎ澄まされている!


「すべて見ました! これで免許更新ですね!」


「いえ、まだです! 講義があります!」


「そこはもういいでしょう!?」


「簡単なやつですから、文句をいう暇あったら協力してください!」


パイロットは講義とテストを受けた。

それから音沙汰がなくなり、街の半分以上が怪獣に破壊されていた。


「おいパイロットは?」


「最後の通信は教習所に入って講義を受けたところで止まっています」


「パイロットにつなげ!」


パイロットのインカムが司令本部とつながる。


「おい、なにをやっている! まだ免許更新ができんのか!」


「実は……、どうしてもテストに合格できなくて……」


「んなっ……」


誰もがパイロットの頭の悪さを思い出した。

巨大ロボットから選ばれた最後の人類ということで、

学校もろくに通わせずに怪獣との備える日々。


それが今、致命的な学力不足をひっさげた現代のモンスターを生み出していた。


「かまわん! もう座学はすっとばせ! そのまま出撃だ!」


「ええ!? でもそんなことしたら免許更新が……」


「あとでなんとでもしておく! 早く出撃しろ!!」


「了解!!」


パイロットのもとに巨大ロボットが届けられる。

ふたたびコックピットへ滑り込むと、ついにロボットが立ち上がった。


「いくぞ怪獣めーー!!」


今にも巨大ロボットの秘めたる兵器の数々が、

怪獣を消しズミに変えてくれると誰もが期待した。


しかし、巨大ロボットはゆるゆると動くばかりで、鋭い攻撃のひとつも放たない。


コレには司令部も焦った。


「おいパイロット! どうした! なぜ攻撃しない!」


「実は……」


「なんだ! 座学のことなんかもうどうでもいい!

 君は眼の前の敵をやっつければいいんだ!」


「僕、実はペーパー・巨大ロボットパイロットなんです」




「えっ」


司令の顔が見事にくもった。


これまで怪獣の進行は水際での迎撃施設で事足りていた。

二足歩行ロボットが出ばるシーンはなかったのだ。


「だから今めっちゃ怖いんです! どう動かせば良いのか!!」


パイロットの操作で巨大ロボットのウインカーとワイパーが動く。

おしりにあるガソリン給油のフタが開いたり閉まったり。


「とにかく武装を使え! なんでもいい!!」


「どれがボタンなのかわからないんですよ!

 僕マニュアル巨大ロボットしか操作したことなくて、オートマ初なんです!

 \ 300m先、怪獣です /」


泣きそうな声のパイロットの裏でカーナビの無慈悲な音声が響く。

そんな間にも怪獣は容赦ない。


巨大ロボットにタックルを決めて、マウントポジションで殴打を繰り返す。


「うわああ! もうダメだーー!」


コックピットまでメキメキ凹んでいく。

そのとき司令が最後の命令を伝えた。


「そこの赤いボタンを押せ」


「赤いボタン? これかな」


追い込まれたパイロットは確かめることもなくボタンを押した。

その瞬間にコックピットは空へ投げ出され、巨大ロボットは怪獣と一緒に自爆した。


残ったのは灰になった怪獣と、破片が散った大地だった。


過去最強の怪獣をしりぞけた代償は大きかった。


「司令……ロボットが……」


「かまわん。パイロットと世界が無事なら安い代償だ」


「司令……!」


パイロットはふだん冷たい司令の心にある、

温かな心を知って涙を流した。


「はやく戻ってこい。次のロボットの教習があるからな」


「はい!! すぐに車で向かいます!」


パイロットは嬉しそうに言った。

新しく買ったピカピカの自動車に乗って本部へと急ぐ。


「司令、それとロボットの座学のこと、ありがとうございます」


「気にするな。座学ができなくても世界は救える」


「そうですね……。助かります!」


パイロットは嬉しそうにスピードを上げた。

司令はふと違和感を感じた。


「ふと疑問なんだが。巨大ロボットの座学はダメだったのに、

 よく自動車免許の座学はクリアできたな?」



司令の疑問にパイロットはきょとんとした声で答えた。




「え? 自動車に免許っているんですか?」



その後、司令本部にはぺしゃんこになった車の映像と音声が届けられた。

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