一章 異世界

第1話 始まりの風

「つぅ~」

 気がつくと竜は倒れていた。目が痛い。何があったか思い出せない。頭がぼーっとする。とりあえず立ち上がろうと目を開け――――








 視界一杯に知らないおっさんの顔が





「――――っ!?!?!?」

 人は本当に驚くと声も出ないらしい。

 行動は迅速だった。神速と言っても過言ではない。

 立ち上がり、素早くバックステップする。火事場の馬鹿力が発揮されたのか、一回のバックステップで5メートル以上先の何かに当たるまで飛んだ。

 これらがまばたきひとつの間に行われた。

 全力で離れ、改めておっさんを見る。そこには最初に見た表情のままのおっさんのが落ちていた。

「―――――――」

 おっさんの生首の近くにはおっさんのものであろう頭と手足のない立派な鎧を着た胴体が。さらに、近くに落ちている右手は剣を持ったままの状態で落ちている。奥には他にも沢山の人の死体が散らばっていた。そのどれも体の一部が無くなっている。

 死体の近くに落ちているバッグも竜の体も血塗れ、足下には乾いていない赤黒い血だまり。

 竜は恐る恐る当たった何かに振り返る。









 そこには山積みにされた沢山の人ならざるものの死体が。



「――――――――ふぅ、疲れてるのかな?」


 竜は頭を左右に振りながら何があったか思い出そうとする。

(たしか、道場の大会が終わって、家に帰って・・・あ!そうだ家が壊れて――――)


「っ!ヘビ?ど―――」


弟の大蛇を探して大声を出そうとした瞬間、


「コクロウ!!」


 竜は耳元で突然聞こえた悲鳴のような声に驚き、ビクゥ!っと反応し辺りを見回すが。


「―――あれ?」


(幻聴?あんなにはっきり聞こえたのに?・・・やっぱり、疲れてるの――――)

「コクロウ!!」

 また、同じ声。竜は目を凝らしてもう一度辺りをよく見回す。そして、


「見つけた・・・けど、遠くない?」

 それらしき人物達を発見するが、500メートル以上は離れている。

 一人はさっきの声の主であろう少女がこちらに背を向けうずくまっている。その少女の前には、コクロウと呼ばれていた者であろう人影が倒れている。少女の足下には赤黒い血が見える。

 その少女の右側には3人の人物が。

 一人は、それなりに鍛えてある体つきをしている、中肉中背の男で動きやすそうな皮鎧に片手剣、小さめの盾(ゲームで言うバックラーらしきもの)を着けている。

 二人目は、私、魔法師です。といった感じの細い男でローブと杖を装備している。

 三人目は、頭から足まで鎧で覆われている。背がかなり高いため性別は恐らく男、装備は持ち主より大きな両手剣、力自慢タイプのようだ。

 三人供、勝利を確信したのか、笑顔が見える。

 あまりいい光景ではない。

 と、ここまで見た竜は、

(あれ?こんなに離れているのに、何で見えるの?)

 疑問を持っていた。

 本来なら米粒程にしか見えないくらい離れているのに、表情がしっかりと見えている。

 今も竜には、倒れている者の血を止めようと必死な少女とそれに近づく武器を手に持ったままの三人組の見下すような表情まで見えている。














 武器を持ったまま?


 グロ耐性はあると思っていたが、予想より精神にきていたようで判断力が低下していたらしい


 少女の前で男が片手剣を振り上げる。















 武器包丁を男が振り上げる。





 足下に倒れているのは幼い頃の竜





 刀を持った幼い頃の大蛇が、隣の和室から焦った表情で出てくる。





 男が武器包丁を振り下ろす。





 血飛沫が舞う。





 竜を庇って倒れる妹――――――――







 自分を庇った妹の姿と人影を庇う少女の姿が重なる。


「――――っ!」



 また、あれを見るのか


 あんなもの二度と見たくない!!



 過去のトラウマ。

 力の無い自分が強くなるため、足手纏いにならないために、神月流という合気道や柔法などを扱う、護身の道場に通うようになったきっかけ。


 少女の方へ竜は全力で駆ける。

 距離は500メートル以上、剣はすでに振り上げられている。


(間に合わない!)



 かなり優れていると自負している動体視力が、剣を振り下ろす際の筋肉の動きまで見切る。


 さらに強く一歩を踏み込み――――――





 風が吹いた。





「あれ?」

 少女達が竜の視界から消える。

「え?」

 竜の左から少女の声。

「は?」

 右からは男の声。

 どちらもぽかんと口を開けている。

 それでも、振り下ろされている剣は止まらない。

「ほえ?」



 間抜けな声をだしている、間に入った竜目掛けて。

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