第45話 可愛らしい怪異 後編

 キツネから解除条件を聞き出して、私と加茂さんは動き始める。解除条件はランタンを探し出すことなので、二手に分かれた方が効率良いと提案したのだが、


「だめだ」


 加茂さんに却下されて、一緒に行動することになってしまった。手をつないだままで恥ずかしい。


「ねえ。加茂さん」

「なんだ」

「何で手……繋がったままなんですか?」

「変な行動をさせないためだ。富脇から聞いた。幽閉されている中で、歌っていたらしいな」


 負の信頼が出来上がっていたからだった。言い訳をしたら悪化する。


「辛かったら言え」

「……はい」


 先輩として放置できないということにしておいた。今やるべきことをやらなければいけない。


「ランタンを探すって結構シンプルですよね」

「だがヒントはないに等しい。地道に探すしかないな」


 キツネからは何も言ってこない。人形のように静かになっている。


「灯りをきちんと見る他ないが」


 何かが上から落ちてきた。加茂さんは空いている手であしらう。落ちてきた何かの正体は猫のぬいぐるみだった。とんがり帽子にマントと、魔女の使い魔を思わせる。


「なんていうか……子供の悪戯って感じなんですよね。この怪異」


 全てが可愛らしく、柔らかい世界観がこの怪異の特徴だ。加茂さんの苛立ちの声に怯えていた辺り、本当にただの子供なのだろう。


「そうだな。徐々に精度が落ちつつある。大人数で挑んだみたいだが、緻密には出来ていないと考えて……」


 加茂さんの考えを聞いたキツネ二匹が頭を下げる。涙が出ている。ガチで凹んでいる。


「加茂さん、もうちょっと加減を」

「しかし相手が子供とも限らないだろ。演じるという可能性を頭に入れておけ」


 ため息を吐きたくなる。仕事柄そうなってしまうことぐらい、理解しているが……もう少し向こうにいる誰かを想像して欲しい。私の言葉を聞いて、何か変わってくれればと思う。


「警戒し過ぎですよ。前みたいな嫌な感じしませんし。あ」


 キツネのぬいぐるみをずっと見て、ようやく気付いた。青い目。赤い目。妖怪アニメに出てくるヒロインの巫女の式神に似ている。


「ひょっとして式神の葵と紅子かな」


 名前を出してみたら、向こうにいる本人たちが大喜びの反応をしている。


「知ってるの!?」


 小学生の従姉妹が見ているから知った。それだけだが、この辺りは素直に言ってもいいだろう。


「うん。従姉妹が見てるから」

「嬉しい! リコ姉! 知ってる人いた!」


 向こうにいる子供達がはしゃいでいる。普通にプライベートが駄々洩れだ。徹することが出来ない時点で疑いが晴れているようなものだ。加茂さんが長く息を吐いた。一瞬だけ私を見たが……何故だろうか。


「……悪いことは言わない。今すぐに怪異を解いた方がいい。危害を与えるつもりはないみたいだが、よくないことをしていることを自覚しろ」


 キツネ二匹が固まっている。加茂さんは好機と感じたのか、言葉による追撃をする。


「もう二度とやらないことだ」


 狐は何も言わない。それどころか、徐々に色が薄くなっている。映像の質が荒くなっているような感じだろうか。


「限界が来て、勝手に解除されたって感じですね」


 今はただ起こっていることを口に出す。加茂さんが何を思っているのか。そこまで言及する必要がない。どうしようかと考えている間に、黒いところが剥がれ落ち、駅ビルの風景が目に映るようになった。


「なんか不思議でしたね。あいた」


 加茂さんにデコピンされた。地味に痛い。


「帰るぞ。井上」

「はーい」


 事務所があるビルに着くまで、私は加茂さんに掴まれたままだった。加茂さんが加減しているため、痛くない。しかしどこか……手放さないという強い意志を感じた。本当に気にし過ぎではないか?

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