第20話 異能を使った攻略

 安全なところにいる私は唾液を飲み込む。ネット上から静かに見守る中、二回目のゲームが始まった。天霧君は実に楽しそうにやっている。鼻歌が出そうなぐらいの楽しさが溢れている。一方で、他の参加者は疑心暗鬼に相手の手札から一枚を取って、一枚を捨てている。


「遠藤さんなら、無双来たあとかそういうコメントを流すだろうけど。流石は裏世界の腐った住民だ。彼奴を殺せとか。賭けた金の話とか。そういう話ばっかだ。楽しみ方が歪んでいやがる」


 富脇君が嫌そうに言った。気持ちは分かる。ゲームとは思えない物騒具合と腐り具合なのだ。正直……死をエンターテインメントにして欲しくない。どんどん根っこが腐ると予想しているからだ。


「彼奴はどう止めるつもりなんだ。被害者を出さないっての、難しいだろ。ゲーム詳細までは分かってねえわけだから」


 富脇君の言う通り、被害者ゼロは難しい。警視庁の立場としては情報収集がメインのはずだから、多少の犠牲者を出しても……メディアが批判をするから流石にやらないと願いたい。天霧君の予想次第で展開が変わって来る。


「罰ゲームで庇うという手はないだろう。寧ろ悪化すると思うが、井上はどう考える」


 加茂さんの突然の質問に驚く。まさか聞かれるとは思っていなかった。


「うえ!? えーっと」


 相手の立場。視聴者の心境。天霧君の考え。推測をしながら語るしかない。


「流石に他人を庇うなんてことはないはずです。悪化するっていうのもあるんですけど、罰ゲームを凌いだ時の反応も見ておきたい可能性も否定できないかと」

「あー」


 加茂さんと富脇君。二人とも納得するような声を出していた。


「どういう罰ゲームなのかと実際に見る可能性もあるでしょうし。どちらにせよ。私達はここから見守るしかない」


 話している間にゲームが進んでいく。天霧君は躊躇なく右隣の人(長い黒髪の細身の男)から手札一枚を取った。ジョーカーを手札に加えているような……気のせいだろうか。そう思って、パソコンの画面を指す。


「気のせいじゃねえよ。普通に手札に加えやがった」


 気のせいではなかった。


「潔い小僧だとかそういうコメントが流れているな」


 加茂さんが小さく言ったので、チャット欄を見る。褒められているのか不明である。


「ジョーカー取りたくねえから、慎重になる奴が多い中で、これだもんなぁ」


 富脇君が苦笑いした。私も似たようなものだ。


「悪化するようなことはせえへんと思うけど、何考えとるんやろな。天霧君は」


 警視庁の風間さんの疑問を聞いて、マジでそれなと思ってしまった。


「それは俺達も知りたいです」


 加茂さんと富脇君の発言のタイミングが同じだった。誰だって他人の考えていることなんて分からない。そういうものだ。


「時間切れ。ゲーム終了だ」


 ゲームマスターの声が終了の合図となった。誰もが固唾を飲んで動画を見守る。ずっと天霧君の手にジョーカーがあるわけではない。何回も手札から取られる機会があるのだから、一定の確率でなくなる時もあるだろう。ぐるぐると回って、自分の手に戻る確率はもっと低くなる。


「ところで沼津君と言ったか」


 ゲームマスターの発言で天霧君は偽名を使って参戦していたことが判明した。どれだけ設定を練っていたのかが気になる。


「ズルをしたな?」


 普通なら焦るものだ。身体が固くなったり、冷や汗をかいたりするものだろう。


「あはっ」


 そのはずだが、天霧君は笑っていた。


「だからどうしたって。だって僕は負けてるんだよ? 変わらないでしょ?」


 天霧君はジョーカーを皆に見せびらかした。仲良くしていた女子高生らしき女性が声のない悲鳴をあげる。他の皆は勝ってホッとしている。サバイバルなので当たり前の反応だが、ここまで差が出るとは予想外だ。


「……否定はしない」

「大体さぁ。なんでこんなエンタメ紛いをするのさ。前はシンプルだって聞いたけど」


 天霧君がド直球な質問をした。加茂さんが頭を抱え、富脇君は堪えている。


「我々はあくまでも依頼を受けただけだ。ある程度やるのも仕事の内だ」


 天霧君は冷たく、軽く、ゲームマスターを挑発する。


「あっそう。ならさ。さっさと殺して見せてよ」


 女子高生の子が叫ぶ。


「だめえ!」


 同時に発砲の音。罰ゲームはシンプルにどこかからの射撃だ。理不尽な殺し方ではない。そのため、天霧君は対応出来る。実際、無事だった。天霧君の右手に手袋。グーになっている。その中から銃弾が落下し、軽い音が鳴る。


「ほお?」


 ゲームマスターは感心していた。余裕のある態度を窺わせる。


「どこから来てるのかさえ分かれば、僕はどうとでもなるんだよ。さあ。どうする。このまま撃ち続ける?」


 二回目の挑発。怒ったらマズイと思われるが、果たしてどう出る。


「次はないと思え」


 キリがないと判断したのか、ゲームマスターに許された。綱渡りで大丈夫なのか。それも計算済みだったのか。本当に分からない。


「沼津君!」


 女子高生は天霧君に抱き着いた。羨ましい光景だが、デスゲーム最中なので数秒で彼女は天霧君から離れる。とても心配だったことがよく分かる。咄嗟に出てしまったことで恥ずかしくなったのか、女子高生の顔が赤くなっていた。

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