第18話 裏世界のデスゲーム開始

 六月。とある土曜日。珍しく晴れていた。本来ならゆっくりする日だったが、天霧君の土下座会の数時間後に作戦のサポートに入るように言われたためだ。細かい作戦を知らないまま、三鷹市のある住宅地に向かう。その中にあるコンビニで朝食を買い、路上にある車で食べる。私は加茂さんと富脇君と同じ、後方座席にいる。前の運転席に警視庁異能捜査課の風間さんがいる。


「午前九時。始まりましたね」


 始まった。ノートパソコンで裏世界が運営する違法動画サイト(正式な手続きはした)でデスゲームを見守る。参加者全員(日本人のみ)がひとつの部屋に集まっている。チャットでは裏世界の住人達が話している。


「彼奴上手くやってるっぽいなぁ。化けてる」

「うえ?」


 富脇君の台詞に私と加茂さんは傾げる。よく目を凝らして探す。ほとんどが黒髪だ。年齢はバラバラ。合計七人。どれが天霧君か。いや。画面が小さすぎて分からない。


「これだ」


 加茂さんが指してくれた。黒髪になっているものの、明るい声と雰囲気は変わらない。間違いなく天霧君だ。


「よく……分かりましたね」

「これでも付き合いは長いからな。な」


 富脇君の確認に加茂さんは静かに頷く。


「仲良しでええなぁ。現況は?」


 風間さんの発言ですぐ画面を見る。加茂さんが報告をする。


「ゲームの説明が始まったところです。チャットの方でも動きがあります。どのぐらいの金を賭けるかを決めているみたいですね」

「既に動いているか。ああ。俺や。予想通りやな。暫くは泳がしとき」


 今回の作戦は解決だけではなく、情報収集も兼ねている。警視庁は事件の予兆を掴んで調査を開始したところという事情が大きい。早く解決した方がいいと考えてはいるが、情報がないまま逮捕する選択が合っているとも限らないので難しい。


「風間さん、一回目のゲームが始まりました」

「ん」


 加茂さんが言う通り、ゲームが始まった。ひとりで部屋から出てはいけない。同時に足を別の部屋に踏み入れないといけない。シンプルだが、厳しい部分もある。恐らく敗者が出たら、こうなるという見せしめをしたいのだろう。前回の分かっている範囲のラインナップではクソゲーかつ理不尽ゲーだった。色々とクレームが入ってきて、面倒くさそうに対応したと言ったところか。


「合わせて出ればいいんだよ。トントントーンって。そうすれば今回は敗者が出ないはず!」


 明るい天霧君の声がよく聞こえる。チャットは冷笑ばかりが流れてくる。他の参加者は不安そうに天霧君を見ている。信じて良いのかどうかを考えている。私にはそう見えた。


「君は怖くないの?」


 若い女性というより、高校生ぐらいの子だろうか。心配になって声をかけていた……と思われる。


「怖くないと言ったらウソだよ」

「じゃあ。なんで率先して」

「生き残るためかな。大好きな人を泣かせたくないし」


 天霧君が言う大好きな人。実に興味深い。知らない人ならそう思うだろう。こういう設定で行くという話は聞き、演じ方がとても上手なので、私は心の中で天霧君に拍手を送る。


「そっか。それなら私も頑張ろうかな」


 紺色セーラー服の女子高生(多分)が元気出たようだ。デスゲーム作品ならよくある流れだと思うが、まさか現実で見られるとは思わなかった。


「この幅なら全員出来るね。足を揃える練習をして、この部屋の床を踏めばいいかな。練習をやろう」


 女子高生は積極的。その他は渋々。小さい画面でも分かってしまうほど、態度が異なっていた。


「三で向こうの床踏むからね。いち。いち。にぃ。いち。いち。いち。にぃ。三!」


上手い具合に誘導してくれている天霧君に感謝だ。実際、敗者が出ないで一回目のゲームをクリアしたわけなのだから。


「犠牲者無しか。チュートリアルに近いから、楽にクリアしやすい難易度やったと考えた方がええやろうな」


 映画なら感動的なシーンだろう。しかしここは現実だ。風間さんみたいな冷静さがいる。いつ私の出番が来るか分からない。ある程度の緊張を持って、見守っていきたい。

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