第13話 井上ひかりが語る

 自称だと思うが、安倍晴明の子孫らしい。安倍リト。漢字は知らないので、その辺りはご勘弁を。年齢は私より五つも上だそうだ。異能専門の警察部隊にいて、広報の顔としてメディアに出ている。顔がいいし、問題を起こさないからだろう。


 かつて私の祖母は安倍家で生まれ、育った。高校卒業(戦後になっているので、これで合っているはず)と同時に、東京に出稼ぎだそうだ。その時に祖父と出会い、祖父の故郷で落ち着いたのだそうだ。息子。娘。つまり兄妹が出来たわけだが、どちらも異能を引き継ぐことなかったらしい。実際、私の父は異能力を持っていない。そして何故か私が引き継いでいた。


 異能の発現はいつごろか。


 小学生の頃だった。はまっていた少年雑誌の漫画で結界を使う主人公がいて、その真似をしようとしていたら、偶然出来てしまった。祖母の目にも映っていた。個人で研究も進んでいたが、祖母のツテでリト兄さんから教わった。才能があったからか、小学五年生辺りで言われた。


「うちの子にならんか。いや。マジで」


 と。ちょ。富脇君。ロリコンって言っちゃだめだって。カッコつけて、文語で説明をしようとしたのに。加茂さんが咽ているし、少し落ち着いてから。よし。


 そもそもリト兄さんが言う「うちの子」は門下生みたいなものだ。決して、ロリコンではない。当時は彼女がいたというので、浮気をするわけにはいかないだろう。結界の異能の限界を追求している節もあったので、恋愛なんてものはなかったと思う。結界を柔らかくしたり、某パズルゲームみたいに遊んだりした。楽しかったから、長時間やったが、祖母に叱られた。年上のリト兄さんは私以上に叱られていた。時代錯誤の外の正座をくらっていた時の写真を友人が持っている。今のスマホにあるから見せても問題ないが。


 少し話を変える。たまにリト兄さんは交流会を開く。安倍家が持つ敷地内で訓練をしたり、教え合ったりする。結界は固いというイメージを覆した人はリト兄さんで、クッションみたいにする技術も彼から教わったのだ。招待状を何度か貰ったが、学業の優先と物理距離が理由で、参加は数回だけだった。それでもウルフハントの大神彰と対面した時に役立ったと思っている。だいぶ濃かった。同じ異能の使い手がいると知るだけでも、良い勉強になった。


 ざっくりと話してみたが、二人とも頭を抱えていた。色々と整理したいことだろう。今度はこちらが気を遣って、食べた分の現金をそっと置いて、駅へ目指そうとする。げ。加茂さんに手首を掴まれた。ちくせう。

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